神戸製鋼性能データ改ざん報道について

10月8日に神戸製鋼所が公表したアルミ製部材の性能データの偽装は、その背信性、規模、影響のいずれをとっても最大級の事件に発展することは間違いないと思います。

まず背信性。アルミ・銅製品は鉄鋼事業に並ぶ同社の戦略事業であり、高性能・高品質を謳い文句に差別化している思われます。卓越した供給能力を信頼した顧客と合意した特別な仕様・性能・安全性に違反したということは、不適合な製品を長年供給し続けたら顧客にどれほど甚大な損害が生じるか想定可能だったことになります。

「法令やJISには違反していない」と記者会見で発言があったようですが、本件は汎用製品のミスではなく、特別な信頼を背いた点が問題です。現場では、特別製品と汎用製品の品質管理上の区別もなかったのでしょうか。昨年もグループ会社でJISに違反する改ざんが発覚し、グループをあげて再発防止に努めていたはずです。その再発防止を進める過程で現場からの通報があったのかもしれませんが、神戸製鋼所の経営がどれほど真剣にリスクを統制していたのか疑問が残ります。

次に規模。金属部品の品質検査に関する証明書を改ざんしていたのは、長府、真岡など同社グループの4事業所で、全体の出荷量の4%にあたり、出荷先はJR新幹線、航空機、自動車など約200社に及ぶそうです。記者会見では、不正の常態化は10年近く前から確認されており、実際に手を下したり黙認したりしていた現場社員は、管理職を含めて過去1年間だけでも数十人にのぼるとのことです。不正行為が会社全体に及び、これまで自浄作用が働かなかったことは異常だと思います。

そして影響。顧客が受ける影響リスクの大きさは尋常ではありません。設計や調達仕様で安全幅を設けているので、実際の安全性に支障なしとの結論に至る割合が少なくないと思いますが、自動車メーカーなどは、出荷停止、詳細調査、最悪はリコール(回収・無償修理)など、相当な影響が想定されます。 顧客が海外でPL訴訟に巻き込まれる可能性も皆無とは言い切れず、今後確定する損害賠償責任が巨額に及ぶことは想像に難くありません。経営責任という話でとどまるかどうか、経営の屋台骨を揺るがす事態に発展しないか、予断を許さない状況にあると思われます。

記者会見での説明によると、①8月末に現場の管理職からアルミ部門の役員に報告があり、8月30日に社長含め経営陣に報告があった。②即座に不適合製品の出荷を停止し、第三者調査委員会を設置した。③グループ内の監査や出荷先の製品への影響の検証や説明を優先していた。そのため、問題の把握から公表まで時間がかかったとのことです。

顧客や市場への影響が大きい案件だけに、内部を固めてから世間に公表せざるを得なかったと思います。でも、三連休の中日の日曜日に公表するのは、危機対応の観点からいかがなものかと思います。最初から逃げ腰で、記者会見での説明も無責任な印象を与えてしまったのではないでしょうか。

明日は、本件の第三者委員会の調査ポイントについて私見を述べます。

 

がんばれ! ヤマトホールディングス #2

8月8日の当ブログに「がんばれ! ヤマトホールディングス」の記事を掲載した際、「過酷労働や賃金不払いがあれほど判明しているのにCSRの魂を売ったのか」と批判が届くかと思いましたが杞憂でした。名ばかりの再発防止策でお茶を濁す企業が多いなか、会社の存亡をかけて構造的な解決をはかる経営姿勢を評価する私の意見に、企業のコンプライアンス担当者から肯定的な意見がいくつか寄せられました。

9月28日、ヤマトホールディングスは2019年度までの新中期経営計画を発表しました。ネット通販荷物の急増に対処しつつ運転手の勤務時間を短縮するため、午後・夜間専門ドライバー(契約社員、業務委託)を1万人配置するなど働き方改革に1千億円を見込むほか、再配達を抑制するするため街中のオープン型宅配ロッカーの増設や新型車両の導入、集配システムの改良、ロボットやAIの導入など業務効率化に1,500億円を投じるとのことです。

私が素晴らしいなと思うのは、こうした投資の原資に運賃引き上げによる増収分を充てるとしている点です。9月28日付け日本経済新聞によれば、ヤマトの取扱い荷物の1~2割を占める米アマゾン・ドット・コムとの運賃交渉が大筋合意し、値上げ幅は4割超となるもようとのことです。

さらに、10月1日から個人向け料金が平均15%引き上げられるほか、割引契約を結ぶ大口顧客1,000社とも値上げの合意が進展しているもようです。

そして、経営の実直さが感じられるのは、値上げで収益基盤を確保しながら、取り扱う荷物の総量抑制を当面継続するとしている点です。19年度の取扱い計画を5%下方修正し、19億個に抑制すると記事にあります。

行き過ぎた価格競争や便利さは、サプライチェーンの誰かに犠牲を押し付けます。社会を正気に戻すのは、リーディングカンパニーの社会的責任です。宅配便業界ではヤマトの取扱いシェアは約5割に達します。リーディングカンパニーとして業界の健全化と持続可能に正面から取り組む姿勢を私は応援したいと思います。

 

 

土壌汚染事案の対応について

私が理事・運営委員を務める日本CSR普及協会の2017年度第2回研修セミナ「改正土壌汚染対策法・廃棄物処理法解説」には約100名の方がご参加くださり、好評理に終了しました。ご参加くださった皆様にお礼申し上げます。私も会社の保有地で土壌汚染が判明した際のリスク対応の実務について、初動段階で社内で認識を共有すべき点について概説させていただきました。

土壌汚染案件では、汚染事実の報告、 健康リスクの回避、周辺不動産価値の下落防止、具体的損害の補償などが対応テーマとなります。多様な活動でありながら終始一貫性が求められますので、社内に対策本部を設置して情報の統一と司令塔の機能を担うこと、外部の専門家としてリスクコミュニケーションのコンサルタント1名、土壌汚染対応に詳しい弁護士1名、民事・刑事に強い法律事務所1カ所を確保することをお勧めします。

経営者のなかには、土壌汚染が判明したら高額な費用で必ず対策を講じなければならないと誤解している方を見かけます。「汚染状態に関する基準」の超過は自治体による区域指定につながりますが、「健康被害が生ずるおそれに関する基準」を超えなければ特別な対策は求められません。過剰反応すると隠蔽リスクが増えますので気をつけてください。

実務で頭が痛いのは、汚染された土壌はすべて掘削して土を入れ替える、という市民感覚の誤解が広く浸透している点です。土地所有者には、時間がかかっても、対策の相場観を理解してもらう必要があります。

土壌汚染対策法は、掘削除去などの過剰な対策を求めるものではなく、対策コストを削減しつつ、土地の有効利用を促進する内容になっています。具体的には、有害物質の暴露や地下水の利用など健康被害のリスクが具体的にある場合は、盛り土、舗装、封じ込め、地下水の揚水浄化などの対策を講じます。

もうひとつ大事なのは、会社による自主的な調査・対策・公表であるとの姿勢を終始一貫して維持する点です。リリースの文章などで、「自治体の指導・監督を受けながら」という表現を見受けることがありますが、「自治体に報告して助言を受けながら、法律や条例を参考に、当社の判断として」と書くべきでしょう。

都道府県は調査命令や措置命令の権限を持ち、住民の生活環境の平穏を守る立場にありますので、後々対応のズレや矛盾を無駄に招かないよう、関係のプレスリリース、公式ホームページの掲載情報、近隣説明会での説明及びQ&Aは、事前に自治体に目を通してもらい、アドバイスをもらうことをお勧めします。

そうした基本姿勢で自治体、近隣の土地所有者・住民の信頼を獲得し、かつ適切なリスクコミュニケーションを行うことが、調査・対策の自由度を広げ、合理的なコストで責任を果たす結果につながります。

なお、同業他社でも想定される原因ならば、監督官庁から同業他社に調査の要請があるかもしれませんので、業界団体とも事前調整すべきでしょう。