民法改正と未払賃金の消滅時効延長

ご案内の通り、今般の改正民法では債権の消滅時効期間が、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間、権利を行使することができる時から10年間に変更される予定です。

一方、現行の労働基準法では、労働者が使用者に未払い賃金を請求できる権利の消滅時効を2年と定めています。現行の民法では1年の短期消滅時効に該当しますが、労働基準法では労働者保護の見地から2年に延長していると説明されています。

しかし、改正民法によれば消滅時効は5年に延長されますので、これより短い消滅時効を労働基準法に残すことは労働者保護に反することになります。さらに、年次有給休暇の繰り越し期限を翌年に限定しているのも、未払い賃金の2年の消滅時効が根拠ですから、同様の矛盾を抱え込むことになります。

年末の新聞報道によれば、厚生労働省は未払い賃金の消滅時効の延長に向けて有識者検討会で議論を始めたようです。消滅時効が5年間に延長されると、未払い賃金を発生させた企業が問題解消のために負担する経済的インパクトが倍以上になり、事業継続に影響するケースも懸念されます。分割して弁済するにしても総額は変わりません。

予防や早期発見に優る手立てはないということでしょう。コンプライアンスの実務に立ても大きく影響する法改正になると思います。

 

不正行為等の発見統制に関する研修セミナーのご案内

私が理事・運営委員を務めます日本CSR普及協会で1月29日(月)に不正行為等の発見統制に関する研修セミナーを開催します。

研修セミナーでは、三線ディフェンスによる発見統制の概要を弁護士の竹内朗氏が解説した後、不正事例に基づいて、すでに起きている不正をどのように発見するか、内部監査専門家、弁護士、公認会計士の御三方にパネル方式でお話していただきます。

会員以外の皆様も参加(有料)できますので、是非お申し込みください。http://www.jcsr.jp/seminar.php

不正行為等の発見と言いますと、内部通報チャネルの拡充を提唱する方がいますが、これはあくまでもサブラインに過ぎず、職制を通じた報告・相談や三線ディフェンスの体制整備といった本来の形が重要です。

なお、三線ディフェンスは初耳といった方がいるかもしれませんので補足しておきます。
・ 第一のディフェンスラインは、業務執行部門がリスクオーナーとして統制手続に基づき運用することをいいます。
・ 第二のディフェンスラインは、リスク管理部門やコンプライアンス部門が業務執行部門から独立した立場で監視とアドバイスを提供することをいいます。
・ 第三のディフェンスラインは、内部監査部門が内部統制システムやリスク管理機能について合理的な保証を取締役会に与えることをいいます。

今回の研修セミナーでは、こうした地に足の着いた基本の徹底を説明させていただきます。ご期待ください。

 

取締役の多様化

議決権行使助言会社が公表する方針の中で、社外取締役や女性取締役の増強など「取締役の多様化」を求める考えが最近示されています。

例えば、社外取締役を取締役総数の1/3以上とする案があります。社外メンバーがこの規模になりますと、取締役会の役割・上程事項、議長・議事運営などを抜本的に変えませんと社外取締役の存在価値が発揮できません。

鶏が先か卵が先かの議論になりますが、土俵を変える準備にめどをつけてからそれに相応しい社外取締役を探すのが順序だと思います。このプロセスの不足から、ご意見頂戴の活用にとどまり、せっかくの社外取締役が宝の持ち腐れになっているケースが少なくないように感じます。

また、経営の大きな方向性を決めるのが取締役会の基本的役割であることに異存はありませんが、当期業績を追い掛け、任期中の無失策に拘泥する業務執行陣に、客観性と説得力のある中長期の予測と計画を期待するのは、なかなか難しいと思われます。

仮に社外取締役が指摘・要求しても業務執行陣の当事者能力に難があれば実現できませんし、後日の選任議案に反対するのでは時機を逸します。経営経験のある社外取締役が指南役を務めれば、業務執行を担当することになり、社外性と抵触する懸念もあります。

企業のガバナンス実務で、「経営の大きな方向性を決める取締役会」が実現しないのは、こうした事情があるからだと私は考えています。

一方、女性取締役の積極的な登用は、働き方改革や性差の撤廃を進める期間は、意図的に下駄をはかせても導入すべきだろうと思います。事業内容や業態によって必要性の濃淡はあると思いますが、男性ビジネスマン以外のステークホルダーの代弁者として、期待役割は非常に大きいでしょう。

社外取締役にしろ女性取締役にしろ、取締役を多様化し、異なる経験や価値観から光を当て、他人の意見に本気で耳を傾ける重要性を、取締役全員が共有できることが前提となります。自分では多少の自信があっても、大事のことは専門家や先輩に広く意見を聞くことが大切ですし、他人の話を聴く姿勢があれば周囲から信頼され、自分の見聞も広がります。取締役を多様化の成否は、役員の度量にかかっているように思います。