アクティビストによる社会的配慮の要求

1月9日付けの日経電子版に、米国アップルがiPhoneについて、アクティビストして知られるジャナ・パートナーズと米公的年金大手のカリフォルニア州教職員退職年金基金カルスターズアクティビストから、、「若い消費者が製品を最適に使えるよう親が管理できるツールを提供する必要がある」と指摘されているとの記事を見つけました。両者の保有比率は1%に満たないとはいえ、企業の社会的な責任に関して、アクティビストが具体的な対応を求めるのは極めて珍しい事態といえます。

両者の主張は、スマホなどを長時間使用した子供は集中力が低下したり、うつ病を発症して自殺したりする傾向が高まると結論づけた医学研究が根拠とし、「アップルが次世代を保護する対策を取り、顧客に選択肢を与えることは長期的な株主価値を高めることになる」との考えを示したうえで、この分野の専門家委員会の設置や研究の促進、親のための新しい管理ツールや選択肢の開発や提供などの必要性を挙げている、と記事にはあります。

倫理的消費の観点をメーカーが自主的に取り入れ、影響を心配する消費者には回避手段や軽減方法を選択できるようにする発想は現実的であり、メーカーに対する社会からの信頼を厚くする効果があります。米国アップルがどのように対応するか楽しみですね。

ところで、米アップルは最近、iPhoneに搭載しているリチウムイオンバッテリーが古くなり、出力が不安定になってシャットダウンしてデータが消失するのを避ける目的で、CPU(中央演算処理装置)の処理性能を低下させていたことを認めて謝罪するとともに、割引価格で電池交換に応じると発表しています。

処理スピードを遅くして顧客に買い替えに誘導したとも解釈できることからユーザーが「聞いていない」「速度が遅いから買い替えた」と民事訴訟を提起しており、訴訟や波紋が拡大する前に火消しに動いたのではないかとの憶測も飛んでいます。

米アップルが公表せずに処理性能を低下させた真意はわかりませんが、消費者の選択において重要な要素を、外部から疑われるような方法で変更するセンスはいかがなものかと思います。

 

グローバル監査体制の充実

昨年12月22日付けの日本経済新聞では、子会社の富士ゼロックスによるリース取引の不正会計で痛手を被った富士フイルムホールディングスが、会計監査を担当するあずさ監査法人と平仄を合わせて、海外子会社の会計監査の強化に取り組んでいる様子が詳しく解説されています。

実態が把握できず、任せきりになっている海外子会社の監査は形だけに終わっている企業もめずらしくないなかで、富士フイルムホールディングスは昨年9月に監査部をグローバル監査部に衣替えし、約300社のグループ会社を監査するグローバル体制の構築に取り組んでいるそうです。

それにもまして感心したのは、あずさ監査法人の体制変更です。かつては現地拠点を通じて国内と海外の監査チームが間接的に情報交換する体制でしたが、海外赴任経験者を増やし、グローバル企業を担当する国内の監査チームが海外子会社を担当するKPMGの現地事務所の監査チームに直接指示を出す体制に変更したそうです。国内の監査全体のリーダーを努める会計士は、海外の監査チームの人事権までも持つとの説明には驚きました。

私の経験では、日本人は外国人、特に白人組織のマネジメントにおいて力量不足が目立ち、首根っこをつかむ管理監督が期待できないケースが少なくありません。あずさ監査法人が提携するKPMGに現地の実務を委託し、会計士間のやりとりで現地情報や不正の兆候を素早く共有する体制は極めて有効な方法だと思います。

同記事によりますと昨年9月、KPMGの会計士20名が富士フイルムホールディングスを訪問し、アジア、欧州、米国などの各地域を担当する会計士が監査で気付いた注意点を次々と経営陣に報告したそうです。これもグローバル監査体制の一環です。目の届かない海外子会社の実情を外部の専門家から直接聞き取る機会は、親会社のリスク管理の質を飛躍的に向上すると期待されます。

富士フイルムホールディングスが本気で取り組むほど、海外子会社の不適切な会計処理や問題行動が判明するかもしれません。しかし、一気に膿を出し切り、それを乗り切ることで、真のグローバル企業の管理レベルに成長できるのではないでしょうか。私は、富士フイルムホールディングスの身を切る覚悟を高く評価します。

 

一連の偽装不祥事から考えること

昨年秋から連続して判明した偽装不祥事も、調査、対策、処分等が進み、報道も落ち着いてきた様子です。一連の事件の中でも、日産自動車とスバルで判明した無資格者による完成車の不正検査は、多くの企業で同様の発生リスクを抱えているだけに、コンプライアンス活動を考えるうえで参考にすべき事案だと思います。

スバルの案件について長嶋・大野・常松法律事務所が作成した調査報告書では、①補助的検査業務の拡大解釈、有資格者による印鑑の貸出等の不正が80年代からバしまった可能性がある、②資格がなくても技術を備えていれば問題ないという認識が定着していた、③資格取得のルールが実態に合致していないとの認識があった、④検査を担当する現場と課長以上の事務職間のコミュニケーションが不足していた等の指摘が並びます。

しかし、こうした不適合業務を多くの関係者が知りながら自浄作用がなぜ働かなかったのか、関与した役職員が役員・幹部に昇格した際に改善しなかった理由は何か、等々の内部統制に関する調査・分析が十分でない印象を受けます。

独立性の高い品質管理機能の設置、関係規程の整備、教育・研修の強化、生体認証などのITシステム導入、内部監査・第三者チェックの拡充などの再発防止策を読むと、無資格者による完成車の不正検査は再発防止できるのはわかりますが、形を変えた不正行為に自浄作用が働くかどうか疑問が残ります。

私の経験からいえば、最も大切なのは、怒らないから問題を報告して欲しいと経営トップが繰り返し社員に訴えること、問題が判明したら個人のせいにせず組織として対応すること、結果の責任は役員・幹部が取ること、に尽きます。組織の目詰まりを解消しないまま再発防止策を増やしますと、新たな偽装行為をまねきかねません。

第三者委員会等の調査は、外部の人間から見た観察のひとつにすぎません。組織の経営トップには、他の不祥事を含めて一気に膿を出し切る覚悟と迫力が求められます。それによって会社は立ち直り、社員は安心して仕事に集中できると思います。