中国企業のリスク管理に学ぶ姿勢

10月8日付けの日本経済新聞に、中国の企業法務の最新事情に関するインタビュー記事が掲載されていました。日本企業のコンサルテーションで中国やアジア拠点のリスクマネジメントを相談されるケースが多いので、興味深く拝読しました。語り手は、上海交通大学教授の季衛東氏と上海城建総法律顧問の張中氏です。

お二人の指摘の共通点は、中国企業の海外活動を拡大する政策の進展とともに海外の現地法制への対応が急務になったこと、弁護士資格のある社員チームを中心に各国現地の専門家とタイアップしている、現地法制への入念な調査・対応や戦略的な交渉・契約が求められる等々の点です。

特に国家政策である「一帯一路」を進めるには、多様な民族、政治、文化、宗教への対応が必要で、海外進出企業においては広範なリスク管理や事前法的訓練が不可避であるとの指摘には、日本企業の置かれている状況との差異を痛感しました。

海外進出する日本企業の多くは、①まず日本人の経営層とマネジャーが派遣され、日本流の仕事のやり方で立ち上げ、②現地の日本人会で知り合った他社の知恵者(日本の親会社ではありません)のサポートで息をつなぎ、③しばらくして現地の経験者や専門家の力を借りて混ぜこぜの落としどころを模索する、といった感じでしょうか。

中国企業の置かれている状況は日本企業のそれと多様性やスピート感が違いますね。あと5年もすると、中国企業は欧米の法律・会計・コンサルファームを使いこなして、効率的なリスク管理システムを構築することでしょう。日本企業は、中国企業の進め方を学習し、差をつけられないよう頑張らなければなりません。

 

派遣社員の無期転換

2015年9月末施行の改正労働者派遣事業法で、同じ派遣労働者を同じ部署で3年を超えて派遣できない3年ルールが導入されました。ただし、派遣会社が雇用安定措置としてその労働者を無期雇用すれば、上限3年の適用を受けず、派遣先に同じ部署に派遣し続けられます。

先月末で3年を超える派遣社員が発生するため、派遣会社や派遣先企業の動向が注目されていました。10月3日付けの日本経済新聞では、有期雇用から無期雇用への転換制度を拡充する大手派遣会社が登場しているようで、派遣先企業も習熟した派遣社員の続投を希望し、15%の料金アップに応じているとの記事が掲載されていました。

これに比べ、派遣先企業の正社員への転換を前提とした派遣未経験者向けの無期雇用制度は、かなり苦戦している模様が同記事で報じられています。また、全体の10%くらいは束縛を嫌って無期転換を拒否するとの解説もあります。

労働者約5460万人のうち、非正規は2036万人、さらにそのうち派遣労働者は136万人と、決して大きな割合ではありません。でも、採用費や総人件費において正社員よりメリットが多いと企業が判断する料金や条件にある限り、人材派遣制度は一定の規模で生き残ると思われます。その人材派遣において無期雇用の対象者が拡大することは、制度の持続可能な成長においても良い方向と評価します。

スルガ銀行に対する行政処分

金融庁は9月5日、本日、スルガ銀行株式会社に対して銀行法第26条第1項に基づく行政処分を行いました。

処分内容は、新規の投資用不動産融資の半年間停止、 役職員に対する研修、経営責任の明確化、法令等遵守・顧客保護及び顧客本位の業務運営態勢、反社会的勢力排除・マネーローンダリング及びテロ資金供与に係る管理態勢、創業家の一定の影響下にある企業群(ファミリー企業)との取引を適切に管理する態勢、個々の債務者への適切に救済態勢、ガバナンス態勢の抜本的強化など多岐にわたります。

それぞれに対応する処分理由を読むと、銀行業で想定されるコンプラインス違反のオンパレードですね。まだ組織として回復可能な段階にとどまっているのかどうか、一定の措置の後に他行への吸収が予定されているのではないか等々、個人的には疑問を禁じ得ません。その意味で気になるのは、どうすればこれほど組織の倫理観や規律が破壊するのかという原因分析です。一連の問題が発生した要因を金融庁は次のように説明しています。

「問題発生の要因としては、創業家が実質的に当行を支配する中、審査態勢に不備が認められる営業優位の組織を構築する一方で、営業現場を放置したため、営業現場では、創業家の後ろ盾を得た特定の執行役員が、厳しい業績プレッシャー、ノルマ、叱責等で営業職員を圧迫した結果、法令等遵守を軽んじ不正行為を蔓延させる企業文化が醸成されたことが認められる。
 また、取締役会は、特定の役職員に営業方針や施策を任せきりとなり、その内容や結果だけでなく自行の貸出ポートフォリオの構造すら把握せず、適切に監督機能を果たさないなど、経営管理(ガバナンス)に問題があったことも、問題発生の要因と認められる。」

役員や管理部門が総崩れになっていた状況は7日に公表された第三者委員会の調査報告書に詳しいのですが、それを読んでも組織全体が常軌を逸した真の原因が理解できません。日本社会の教材とするには、なぜ社会の正義より組織の正義が優先したのか、集団心理や組織心理学など人間の心の要因を深く分析する必要もあるのではないでしょうか。本件は、スルガ銀行の役職員の特性が原因ではなく、他のオーナー型企業でも起きうる病理のように思えてなりません。

また、周到に隠蔽された組織的な不正を社外役員がどこまで把握できるかという、他社にも共通の課題が指摘されています。取締役会や会議体での公式情報だけでは実のある監督はできません。別の情報源で現場の実態を把握する等、実践的な知恵が検討されてしかるべきでしょう。教科書には書かれませんが、重要なポイントだと私は考えます。

本件は、法律家による責任論中心の調査にとどまらず、失敗学、心理学、会計不正、コンプライアンスなど多様な専門家が集まって、深く分析するに値する事例です。そうした機会があれば、私も是非参加したいですね。