離れた場所で働く部下の管理

ある企業のコンプライアンス研修(課長以上)で、離れた場所で働く部下をどのように管理すべきか、質問を受けました。ときどき受ける質問ですので、読者のみなさまにも私の考え方を説明させてもらいます。

大切なのは、一緒に働く部下以上に、すりあわせ、確認、牽制を手厚く行い、管理の死角をできるだけ作らないことだと思います。具体的には、週と月度の行動予定、実績、差異原因、対策をきちんとすりあわせること、並びに申請・報告などの事務品質をサンプルを占めさせてチェックすることが基本だと思います。

漫然と実績の報告を聞き、おつかれさまの一言で済ませる上司がいますが、これでは部下の気が緩みますし、ミスを隠したり、手を抜いたりする不正を誘発しかねません。綿密な報告書や記録の作成を要求して部下がブレる余地を抑制するのが、結果として部下を守ることになります。

ここで気をつけたいのが、非言語コミュニケーションの重要性です。米国の心理学者アルバート・メラビアンの研究によれば、人と人とが直接顔を合わせるコミュニケーションにおいてメッセージに込められた意味・内容の伝達に占める割合は、言語が7%、声のトーン(聴覚)が38%、身体言語(ボディーランゲージ) (視覚)が55%といわれています。

人間のコミュニケーションは、視覚に依存する割合が非常に大きく、電子メール、電話、電子決済では、情報量がかなり減少してしまいます。できるだけ足を運んで直接すり合わせたり、少なくとも映像付の電話で様子を確認しながら話をするのが望ましいといえます。

同じ職場で働く部下は、本人の様子がなんとなくわかりますし、話も自然と聞こえてくる余地があります。でも、離れて働く部下は、それができません。やるべきことをきちんとやってもらうといった厳しい姿勢で牽制し、その反面、仕事の良い部分をほめる、将来の期待を言葉にして伝える等、モチベーションの維持・向上にも配慮するのが、バランスのとれたマネジメントだと私は思います。

 

日本経団連・企業行動憲章の改定

11月8日、日本経団連は、Society 5.0の実現を通じたSDGsの達成を柱として、企業行動憲章を改定したことを公表しています。

Society 5.0とは、現政府が推し進める将来社会ビジョンで、「必要なモノ・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細かく対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といった様々な違いを乗り越え、生き生きと快適に暮らすことのできる社会」(第5期科学技術基本計画)と定義されています。日本経団連は、こうした未来の創造が国連で掲げられたSDGsの理念とも軌を一にする、との解釈で今回の改定を位置付けています。以下、改定のポイントをみてみましょう。

1. サブタイトルを「持続可能な社会の実現のために」へ変更
「ビジネスと人権に関する指導原則」(2011年)、「パリ協定」(2015年)、「SDGs(持続可能な開発目標)」(2015年)などグローバル基準への依拠して、民間セクターとしての創造性とイノベーションの発揮を社会的責任の基盤とする考え方を示しています。

2. イノベーションを発揮して、持続可能な経済成長と社会的課題の解決を図ることを新たに追加(第1条)
広く社会に有用で新たな付加価値と雇用を新たに創造することを企業の社会的責任と位置付けています。創造的破壊ができる経営を評価する姿勢が表れています。

3.人権の尊重を新たに追加(第4条)
事業活動の影響を受けるすべての人々の人権を尊重する義務という国連・指導原則の考え方を踏襲しています。日本企業が先進国の水準から大きく遅れを取っているテーマです。

4. 働き方改革の実現に向けて表現を追加(第6条)
従業員の能力を高め、多様性、人格、個性を尊重する働き方の実現が企業経営の責務であることが明記されました。これを実践できる能力の有無が企業の盛衰を分けることになりそうです。

5.多様化・複雑化する脅威に対する危機管理に対応(第9条)
反社会的勢力、テロ、サイバー攻撃、自然災害等が現実的な脅威と感じられる昨今、織的な危機管理の充実は、当事者の企業のみならず、顧客企業の事業継続、国内外のサプライチェーンの活動、多くの労働者の生活にもかかわることから、従来より本腰を入れた対応が求められます。

6. 自社・グループ企業に加え、サプライチェーンにも行動変革を促す(第10条)
CSR調達活動の拡散・浸透に代表されるように、企業の社会的責任の範囲は年々拡大しており、責任投資原則、倫理的消費の動きと相まって、社会に有用な企業が選択される社会構造が整備されつつあります。サプライチェーンへの働き方は、自社にも協力会社にも社会にも相乗の利益をもたらします。

いずれの改定項目も、国際社会と日本社会が向かう望ましい社会像に合致した内容と私は評価します。絵に描いた餅とならないよう、皆さんの会社でも企業理念等の見直しをなさってはいかがでしょうか。

 

 

神戸製鋼所の原因究明・再発防止策報告書を読んで

11月10日に神戸製鋼所が「当社グループにおける不適切行為に係る原因究明と再発防止策に関する報告書」を公表しました。今回の不正発覚までの経緯、発覚後の初動、判明した不正の全体像、原因分析、再発防止策、外部調査委員会の設置目的などが語られており、今のタイミングで意味のある公表だと思います。

まず、鉄鋼事業部門の関連会社で昨年6月に発覚したJIS法違反事案を受けたグループ全体に対する過去1年間の出荷実績に対する自主点検要請を契機に一連の検査偽装が判明した事実が述べられています。不祥事を起点とした自浄過程で判明したことは、若干ながらもプラスの材料だと思います。判明直後の初動調査から公表に至る対応も十分理解できる内容で、特段の疑問は感じません。この部分たけでも先行して公表しておいた方がよかったかも知れませんね。

同社は報告書で「本件は、所属する事業部門・事業所、製品の種類、製造体制や工場規模により違いはあるものの、多くの不適切事案において『複数の部署に跨る広範囲の関与者』がおり、しかも『長期間にわたり不適切行為が継続された』こと、さらにそれが『社内で公に発覚しなかった』という特徴を持つ」とし、「今回、工場で起きているこれほど重大に事態について、経営が問題として取り上げ、対応できなかったこと自体が大きな問題である」と自己分析しています。この問題認識は適切だと思いますし、事情を把握している役員・幹部がなぜどのように事態を放置したのか、そうした責任を基礎づける事実を外部調査委員会が明確にしてくださることを期待しています。

しかし、原因分析の各論に至ると、経営のほころびがめだってきます。まず、事業部門に対する収益重視の評価を推し進め、かつ経営のスピードと効率化から自律的運営を促進し、本社による評価が収益に偏っていたため、工場での生産活動に伴い生じる諸問題を把握する経営や本社の姿勢が欠けていた、とあります。品質は現場で作り込みます。ものづくりの企業の経営が品質管理を軽視するというのは自殺行為に等しいと思います。

それに続く個所では、不適切事案が発生している工場・事業所は、収益貢献を強く求めるあまり、自社の工程能力との対比や試作品の評価及びそれらに関する組織的審議が不十分なままで仕様書を取り交わすこともあったと考えられる、と述べられ、「自社のものづくりの能力の把握を軽視した体質」と自己分析しています。でも、それは、製造能力の裏付けがないままに事業部門が詐欺的に受注していたとも解釈できます。ここは経営の事業管理の不備を示す、非常に重要なポイントだと思います。

さらに、不適切事案が発生した事業所は、製造拠点の専門性を重要視するあまり、同じ事業部門の中でも各製造拠点相互の異動は少なく、閉鎖的な組織運営となっていたため、不正の当事者であった者の上位者昇格や、製造部署と品質保証部署との人的混在が生じ、牽制機能が働かなかったと述べられています。人事ローテーションも必要ですが、品質、法務、経理といった牽制機能は本社の該当部署に所属する社員を現場に派遣・駐在させる方式を導入しませんと、根本的な治療にならないのではないでしょうか。

なお、報告書の再発防止策では、日本鉄鋼連盟のガイドラインに沿って、試験検査結果のサーバーヘの自動取り込み、並びに顧客仕様との自動照合を導入するとあります。人為的に書き換えられる機会を排除することが、偽造防止には最大の予防となりますので、この点は他社も参考されるとよいと思います。