体験的副業論

最近、副業を許可・推奨する企業の動きが活発です。価値観の多様化・ゆらぎ、人材の囲い込み、所得の補充等々、狙いとするところはいろいろですが、私は基本的に賛成の立場です。

私自身の経験を披露しますと、精密機器を製造・販売する大手企業に就職し、法務の仕事に従事していました。企業倫理・不正防止の社内制度・教育研修を開発・導入したり、経営法友会(企業法務の団体)で運営委員として各種マニュアルを作成したりするなかで、他社から制度構築のアドバイスや支援を依頼されたり、大学の非常勤講師を委嘱されたり、弁護士さんと一緒に内部統制を支援・評価するNGOを設立したり、と活動範囲が広がりました。

勤務先には兼業や開示情報チェックの手続をとり、業務に支障なしとの判断をもらって外部の活動を行っていました。最初の段階は、業務とスケジュールがバッティングしても、何とか調整はつけられました。しかし、外部の活動が拡充してくると、それで自立したいという気持ちが強くなり、会社に退職の意向を伝えました。

幸運だったのは、当時の人事部長が特例的に本格兼業を認めてくれ、私は勤務しながら自分の会社を設立して営業することを許されました。ただし、部下を持たなくてすむよう職位を下げてもらい、突発業務の多い法務部からマイペースで仕事ができるCSR部に部署も異動してもらいました。毎日夕方になると、仕事と周囲に配慮しながら、自営の仕事の客先や事務局長を努めるNGOに足を運びました。その後、3年して正式に退職し、現在は自営で生活しています。

会社の在職時は、世間で専門家としての評価を上げつつ会社主催のイベントで会社の取り組みをPRする等、双方にメリットのある形が取れましたが、退職後は社内事情にも疎くなり、後輩の考え方を邪魔してはいけないという気持ちから、在職した企業に関する論評等は避けるようになりました。

私は、昇進昇格より好きな仕事をしたいと思いましたが、そうでない先輩・同僚の価値観も尊重しています。全員が副業に熱心では問題ですが、全体の2割くらいの異端人材を抱え、新鮮な外部の情報を注入してもらう、内部の論理と世間の見方とのギャップを指摘してもらう、社員が仕事と自分との距離感を適切に保つような影響を生んでもらうといったことは、組織にとって有益だと思います。

兼業の許可・推奨は、役職員の納得が得られる「大義」を建てて、本業に隣接した専門性の高い仕事から解禁するのがよいと、私は自分の経験から感じます。

司法試験経験者の採用

4月23日付け日本経済新聞に掲載されたモアセレクションズ株式会社 上原正義社長のお話を納得して拝読しました。法科大学院を終了して司法試験を受験したものの最終合格に至らなかった人材に対する企業の求人が4年前と比較して5割増し、8年前と比べて5倍になった、という指摘です。

企業による法務人材への需要は高まっており、中途採用も増えましたが、その企業の文化や価値観を体に染み込ませて活躍してもらうには新卒採用が望ましい、と考える法務部門の責任者は少なくありません。また、企業内弁護士を中途採用すると、仕事の選り好みや最短勤務期間での海外留学で職場運営が難しいと愚痴を聞くこともあります。

司法試験経験者の新卒採用は基本的に賛成ですが、注意すべき点もあると思います。例えば、現在の法科大学院卒業生は、大学院が工夫した基礎教育よりも、司法試験の受験テクニックの習得に時間を費やしており、必ずしも企業法務に期待される資質や知識を修得している保証はありません。

私は企業法務は20年以上経験しましたが、様々な人間模様に飛び込む好奇心と自分を失わない冷静さ、依頼部門がより安全に仕事できるように法律以外のことも含めて考えてあげるサービス精神、いざというときにはストップをかけられる人間性とコミュニケーション能力といったことが求められる資質だと思います。

また、私は司法試験に挑戦したものの合格せず、企業に拾ってもらいましたが、自分は他人より知識が多いとうぬぼれず、新しく自分を作り直すチャンスをいただいたと謙虚な気持ちで、一所懸命に向上を図る姿勢も大事だと思います。

法科大学院の授業をこなして司法試験に挑戦するだけでも立派な経歴ですから、たまたま合格に至らなくても、大きなチャンスを与えてあげて欲しいと思います。ただし、学校の勉強は接した情報の量に過ぎません。通常の採用と同様に、人物本位で判断することが不可欠だと思います。

 

過労死等防止対策について

厚生労働省は4月24日、過労死等防止対策協議会がまとめた「過労死等防止対策大綱」の改正案を公表しました。過労死等防止対策推進法に基づき2015年に制定された現在の大綱を3年ぶりに見直すものです。

改正案では、事業者・国民への啓蒙活動や勤務間インターバル制度をはじめとする長時間労働の是正策が盛り込まれています。内容はいずれも当然のことばかりで、国の方針としては十分網羅されていると思います。

仕事から抜け切れず人生や家庭を犠牲にする不幸な事態は、なんとしても避けたいものです。しかし、私がコンサルタントとして企業の経営層や幹部社員と接している限りでは、「社員の健康は大切にしたいが決めた仕事は期限までに完了してくれないと困る」、「コンプライアンスや働き方改革を盾に力を出し切らない社員が増えて困る」といった声が絶えない現実があります。

また、仕事を足場に自分の能力・経験や人的ネットワークの拡大を主体的に積み上げるタイプの社員は仕事を効率よく片づけて時間をねん出しますが、受け身の姿勢で仕事を抱え込むタイプの社員は、労働が長時間に及ぶ傾向があるように感じます。上司が同じ管理をしても、社員のタイプによって影響はかなり違ってきます。

私が現場で感じるのは、長時間労働、過度なプレッシャー、ハラスメント等の過労死の背景・要因は、そのほとんどが業務や組織運営のマネジメントの不在に起因しているということです。どれだけのリソースの投入に対してどれだけのアウトプットやアウトカムを創出しているか、プロセスの効率をどれだけ改善しているか、業務の集中と選択をどれほど推進したか、といった評価基準をもつ日本企業にはあまり出会いません。構造的に長時間労働を生むシステムになっているといっても過言ではありません。

以前、依頼された社内研修で私が「命より大切な仕事などこの世に存在しない」と発言したところ、クレームをつけてきた役員の方がいます。そうした環境のまま精神論で過労死撲滅を指示したところで、自分事に捉えたり、業務や要員の見直しから手を付けたりする役員や管理職は少ないのではないでしょうか。すべての企業がそうだとは言いませんが、全体的に見ると、背に腹は代えられない経営が多く、かなりの割合でダブルスタンダードになっている気がしてなりません。

役員や管理職の意識を変えるには、業務や組織運営のマネジメントの在り方を現代化すると同時に、人命軽視の管理・監督には懲罰的な重い制裁を科す方向に持っていくのが有用ではないでしょうか。これは国が指導する問題ではなく、経済団体、産業界、労働組合、研究者、行政がマルチステークホルダーでルールメイキングすべき性質の問題だと私は考えます