公表判断の難しさ ~神戸製鋼所の追加会見~

9月13日、神戸製鋼所は、既に公表したアルミ・銅製部材のほかにもグループ9社で鉄鋼製品などのデータ改ざん等を確認したと公表しました。前日の説明で「不正はなかった」と発言していた鉄鋼製品で不正が次々と判明したこと、9社のうち4社の不正は取締役会やコンプライアンス委員会で把握しながら公表していなかったこと、出荷先から200社から500社に拡大したこと等に、経営の姿勢を問う報道が続いています。

不正はなかった旨の前日の発言は、「今回の緊急監査や自主点検では鉄鋼製品に新たな不正は見つからなかった、という意味で言った」と社長自身が補足回答したようですが、これはいただけません。前日の説明でも、「現在確認中です、確認が取れましたら公表します」程度に匂わしておくべきでしたね。

また、アルミ・銅製部材の不正には数十人規模が関与していたと説明されていますが、13日の記者会見では、その中に品質保証部門も含まれる旨の発言があり、とても気になります。製造部門が社内チェックを騙して出荷したのと、品質保証体制を担う社員が関与していたのでは、事態の意味合いがまったく違ってきます。

自分自身が品質問題調査委員会のトップに就いてリーダーシップを発揮する必要があると社長が発言されたようですが、品質保証体制を機能させられなかった経営陣の調査結果を誰が信用するでしょうか。厳しいようですが、そこはケジメをつけて、独立性のある第三者の調査に委ねる選択が適切だと思います。

さらに公表された不正事実を確認すると、国内外の多くのグループ会社が含まれ、しかも検査データの改ざんだけでなく、そもそも検査を実施していない事例も複数報告されています。グループ会社による昨年のステンレス鋼線の強度試験値の改ざん事件の際に、隠蔽の可能性を前提に内部調査を徹底されたのでしょうか。徹底的に調査・対策しませんと、本件のように自浄能力が疑われ、対策の選択の自由度が限られてしまいます。

ところで、私が一番注目したのは、経営で把握していた4事案を8日の時点で公表しなかった理由について、「取締役会やコンプライアンス委員会で取り上げられたが、損益の観点や法令違反ではないという点で報告しなかった」としながら、「今回の一連の不適切案件の原因を分析するにあたり、過去の案件も範囲に含める必要があると判断した」ので追加公表したと説明されている点です。

おっしゃるとおりです。顧客との間では、検査ミスで謝罪と安全確認が済んでいるかもしれませんが、公共インフラに金属材を提供している企業の内部管理が脆弱なのではないか、神戸製鋼所の言葉は信じて大丈夫か、自分たちに危険が及ばないのか、という観点で世間は情報を求めています。

いわゆるリスクコミュニケーションです。そのための記者会見なのです。同社にとっては処理済みの過去の事案という認識でしょうが、関連するマイナスの判断材料はすべて開示して欲しいのが社会の気持ちです。神戸製鋼所の発表に強い悪意は感じませんが、そこまで公表する必要はないという解決意思の薄弱な判断があるように思います。

世間には、企業が情報を小出しにする理由がわかりません。不都合な事実を隠しているのではないかと疑心暗鬼をまねくだけです。不祥事の公表判断の実務では、「どこまで出すか」に関して内部で意見の分かれる場面が少なくありません。間違いなく言えるのは、一気に全部出したほうが安全ということです。世間は、組織のうみを出し切る経営の覚悟を見ているのです。仮に内部告発された場合に、後から説明すると弁解に聞こえてしまう情報は、最初から公表する方向で考えたほうが良いでしょう。

 

公認会計士協会・倫理規則改定と内部通報ルートへの影響

10月6日、日本公認会計士協会(倫理委員会)は、国際会計士倫理基準審議会(I ESBA)の倫理規程改定を受けて、「倫理規則」等の草案を公表し、広く意見を求めています。

この倫理規則の改定草案では、会計事務所等所属の会員が、専門業務を実施する過程で違法行為又はその疑いに気付いた場合には、「違法行為への対応に関する指針」に従って、適切な階層の経営者(及び必要に応じて監査役等)との協議、経営者の対応の適切性の評価、追加対応の必要性の判断、経緯の文書化等の適正な対応をはかる義務が規定されています(19 条の2)。

まず、「違法行為への対応に関する指針」では、「違法行為」を「 故意若しくは過失又は作為若しくは不作為を問わず、依頼人、その経営者、 監査役等、従業員等又は依頼人の指示の下で働く委託先業者等のその他の者に よって行われる、法令違反となる行為」と定義しています(2項)。依頼人の指示の下で働く委託先業者はどこまで含むのでしょうか。二次、三次の下請を除外する理由もないので、難しい解釈が残ります。

次に、対象となる法令の分類を(a)依頼人の財務諸表の重要な金額及び開示の決定に直接影響を及ぼすもの として一般的に認識されている法令 (b)依頼人の財務諸表の金額及び開示の決定に直接影響を及ぼさないが、事業運営若しくは事業継続のために、又は重大な罰則を科されないために遵守 することが必要なその他の法令 (5項) と定めています。

この対象法令の例示として、①不正、汚職、贈収賄 ②マネーロンダリング、テロリストへの資金供与及び犯罪収益 ③ 証券市場及び証券取引④銀行業務並びにその他の金融商品及びサービス ⑤情報保護⑥税金及び年金に係る債務及び支払 ⑦環境保護 ⑧公衆衛生及び安全(6項)が挙げられています。産廃の不法廃棄や食品偽装は含まれるようですが、横領背任や人権・労働のカテゴリーは除外する趣旨なのでしょうか。少々、疑問が残ります。

私は、この倫理規則の改定を契機に、企業関係者が問題の改善を希望するときは、会計監査人もしくは監査法人に内部通報するケースが増えると予想しています。公認会計士の職務基準に不正への対応が明記され、かつ監査のストップという経営に対する事実上の強制力が働く以上、これほど確実な通報先はないといえるでしょう。

草案では、公認会計士が違法行為が発生した、若しくは発生し得ると認識し、 又はその疑いを持った場合 、適切な階層の経営者(及び必要に応じて監査役等)と協議する手順になっていますが、公認会計士が未体験な分野の通報が予想されますし、業務執行体制による握りつぶしの危険も払拭できません。まず、社外取締役、常勤監査役、社外監査役に情報を伝達し、チームとして代表取締役に調査・対応を要求する手順が正解だと私は考えます。関係者の皆様、是非ご検討ください。

名ばかり管理職と企業のコンプライアンス感度

コナミスポーツクラブ(東京)の元支店長の女性が、管理職を理由とした不払賃金(残業代)約650万円を請求した訴訟の判決が東京地裁でありました。新聞報道等によりますと、原告は入社8年度に支店長に任用され、月5万円の役職手当が支給される一方、残業代は支払われなかったようです。裁判長は支店長を「名ばかり管理職」と認め、制裁金にあたる「付加金」も含め約400万円の支払いを命じたと記事にはあります。

ご存知の通り、労働基準法では労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある「管理監督者」は労働時間、休憩、休日の制限を受けません 。管理監督者に当 てはまるかどうかは 役職名ではなく、その 職務内容 、企業内での責任と権限、勤務態様等で判断されます。

 そして、企業内で管理職とされていても次の基準に該当しない場合には、労働時間等の制約を受けて時間外割増賃金や休日割増賃金の支払いが必要となります。これが「名ばかり管理職」の代表的な事象です。

①  労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にあり、労働時間等の規 制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していること
 ② 経 営者から重要な責任と権限を委ねられていること。
 ③ 労働時間について厳格な管理をされていないこと。
 ④ その職務の重要性から、定期給与、賞与、その他の待遇において、一般労 働者と比較して相応の待遇がなされていること。

今回の地裁判決では、アルバイトの採用や備品の購入に本社の決裁が必要だった、労働時間はタイムカードで管理されていた、従業員と一緒にフロントなどシフト業務に入らざるを得なかった等々の事実認定から、「支店運営の裁量が制限され、恒常的に時間外労働を余儀なくされた。管理監督者の地位や職責にふさわしい待遇とは言いがたい」と結論付けられているようです。

企業経験が長い方は、執行役員、事業部長、本部長クラスの管理職でないとこれらの要件を満たすことは難しい、部長クラスでもここまでの裁量権はなく、まして課長はほぼ該当しない、と感じるのではないでしょうか。正直なところ、私もそのように思います。

しかし、企業の真の意図がどうあれ、人件費の負担を免れるために名ばかり管理職を積極的に利用していると世間から見られます。フリラーンスの利用も人件費、福利厚生費、社会保険料の負担を免れるのが狙いではないかと疑われます。ですから、管理職の権限と責任、労働時間、処遇に、遵法の観点から合理的な配慮をしているかどうかで、その企業のコンプライアンス感覚が問われる結果になります。

労働基準法上の管理監督者は、同法の時間規制等の対象からは外れますが、労働者であることに変わりはありませんから、長時間労働を減らし、健康の保持に配慮する義務と責任を企業は負っています。メンタルヘルス疾患や自殺は管理職の世代に集中する傾向があります。名ばかり管理職は、そうした悲惨な事態の温床になりかねません。まさに、企業の社会的責任の問題です。

労働基準法上の管理監督者の概念は、米国のエグゼンプションの地位に似ており、日本企業の職制制度をこれに変更するのは現実的ではありません。そうではなく、権限・責任・裁量が著しく少ないポストについては「社内的には管理職の扱いだが労働基準法上の管理監督者には該当しない」という雇用上の地位を明確にして、適法性を回復するのが早道だと思います。

長時間労働の削減、労働時間管理の強化という実務の流れにおいて、管理監督者の適用範囲の厳密化をはかる企業が増えてくれることを期待します。