責任に見合った行動が傷を浅くするという教訓

8月25日に国土交通省が公表した「東芝エレベータ(株)製のエレベーターに設置した戸開走行保護装置における国土交通大臣認定の仕様への不適合」は、製品における公的規格への不適合が判明した場合の対応のサンプルになりますので、このブログで整理しておきたいと思います。http://www.mlit.go.jp/common/001198461.pdf

東芝エレベータが製造したエレベーターの戸開走行保護装置が、本来は主ブレーキ・補助ブレーキそれぞれ独立した電源系統とすべきところを一つの電源系統とし、国土交通大臣認定の仕様に適合していないのに、7件大臣認定を受けて545棟の建築物に695台設置してしまったというのが発生した事実です。おそらく大臣認定は書面審査なのでしょう。

東芝エレベータは、この問題事実とともに、(1)指定性能評価機関である(一財)日本建築設備・昇降機センターが確認して安全性に問題はないとの見解を得ていること、(2)是正方法として大臣認定の仕様に現地改修するのを原則としつつ、所有者の意向等に対応できるよう、一つの電源系統とするものについても新たな大臣認定を取得すること、(3)建築物の所有者・管理者は特定できており、9月末を目途に全て連絡することを国土交通省に報告しています。

これを受けて国土交通省は、違法の疑いのある111棟153台について、特定行政庁(建築主事を置いて建築確認申請、違反建築物の是正命令等の建築行政全般を司る地方公共団体)に建築基準法違反の事実確認と是正確認を指示・確認中であること、並びに所有者への早急かつ丁寧な説明、是正措置の迅速・円滑な実施、相談窓口の設置、原因究明及び再発防止策の提出を指示したことを公表しています。

東芝エレベータは、(内部告発の事例でない限り)建物所有者にも国土交通省にも内緒で現場修理できたと思いますが、本案件では正直に報告・公表しています。いずれの企業も事業の持続可能性を考え、内部告発されない状態、内部告発されても説明可能な状態を判断基準のひとつにおくべきでしょう。http://www.toshiba-elevator.co.jp/elv/update/20170825.pdf

 そして、東芝エレベータは、専門性と独立性を備えた専門機関で「放置した場合の危険性」について評価意見を入手して報告しています。企業関係者は違反事実に気持ちが集まりがちですが、世間や行政は「放置した場合の影響」と「要求できる対策」に関心を置きますので、客観的な評価を入手して、それを軸に対策を考える順序が大切です。

なお、 エレベーターは保守・点検を伴うので、本案件は顧客や設置状況を正確に把握している特殊なケースです。すべてを把握していない製品では市場告知と修理リコールを考えることになります。人間の生命・身体や社会公共の危険につながる製品は、いざというときのためにトレーサビリティをできるだけ確保しておく必要があります。

最後に、仕様不一致のまま一定期間は猶予を認めることについて、国土交通省と東芝エレベータとの間で何らかの調整があったと想像します。そうした際に、自主的に報告し、スピード感をもって対策の手を打つ企業姿勢の有無が、行政やマスコミの反応に作用します。逃げず、隠さず、責任に見合った行動を主体的に考えて実行することが、結果として自社の選択肢を広げ、傷を浅くします。本案件からは、そうした教訓が学びとれます。

役員・部長の給与がアジア勢に追い抜かれた理由

ある企業では、非管理職の従業員は、原則として残業や転勤がなく、職域以外の業務には一切触れないルールが徹底しており、よほどの非違行為がなければ解雇されません。一方、管理職や幹部社員は、時間外の上限規制はあるものの本人の裁量の余地が大きく、部下の採用・解雇も任されており、当期の業務成果にすべて責任を負うので、経営の期待にそぐわなければ即座に解雇されます。管理職や幹部社員の報酬は非管理職の従業員の数倍から十数倍です。さらに役員は、管理職や幹部社員の数倍以上となります。競争を勝ち抜くため、優秀な役員、幹部社員、管理職は市場価格で獲得されるので、報酬は個別に設定され、かつ上昇傾向にあります。

これは欧米の大企業の平均的な働き方と処遇です。終身雇用、年功序列、内部昇格を基本とする日本のシステムとは、考え方も構造もまったく違います。欧米の社会が、マネジメントを技能・才能の一種と考え、労働力を創造的に活用し、知的資源で競争力と業績を生み出す発想にあるのに対して、日本の社会は、職位や処遇の差異を大きく設けず、組織の論理、人海戦術で競争に打ち勝つことを目指します。

8月27日付け日本経済新聞の記事「役員給与、アジア勢が上」で、「中国やシンガポールでは部長の給料は平均2,300万~2,400万円、日本は2千万円に届かず、取締役はベトナムにも抜かれる」とありますが、これは幹部社員、管理職をどれほどの知的資源、競争力の源泉と評価するかの違いに起因すると考えられます。中国やアジア諸国が、グローバル経営のために、欧米流の運営に導入している証左とも言えます。

また、この記事で私が注目したのは「日本企業の海外法人でも役職が高くなるほど給与が伸び悩む傾向が見える。例えば上海の各社の報酬を比べると日本企業の部長給与は1,853万円。中国企業(2,012万円)、日系を除く外資企業(2,394万円)より低い。」の部分です。優秀な役員や幹部社員を惹きつけるのは給与水準だけではありませんが、魅力の少ない日本企業が給与すら低いという状況では、闘わずして戦いに敗れるようなものです。

日本国内でも多様な国籍・文化の人材に活躍してもらう時代が目前に迫っています。グローバルな協働や競争が現実化している日本企業はもちろんのこと、純粋な国内企業も、欧米流の運営を段階的に組み入れることが不可避になると私は考えています。働き方改革に関する政府提出の法案は、法案相互の関係が薄いようにも見えますが、企業運営の構造改革の観点で考え直してみると、ひとつの選択肢を示しているかもしれません。

 

 

地方自治法改正と地方公共団体のガバナンス

少し前の話になりますが、改正地方自治法が6月2日に成立し、平成32年4月1日から施行される予定です。地方公共団体のガバナンスの実効性を高める重要な制度導入が含まれますので、ポイントを紹介するとともに私の意見や感想を書かせてもらいます。

まず、「地方公共団体の財務に関する事務等の適正な管理及び執行を確保するための方針の策定等」について述べます。改正地方自治法(要旨)では、「都道府県知事及び指定都市の市長は、財務に関する事務等の適正な管理及び執行を確保するための方針を定め、これに基づき必要な体制を整備しなければならない(市町村長は努力義務)」、「当該方針を策定した地方公共団体の長は、毎会計年度、当該方針及びこれに基づき整備した体制について評価した報告書を作成し、議会に提出しなければならない」とされています。

これは会社法が業務の適正を確保するための体制に関する基本方針決定を取締役会に義務付け、事業報告書で方針と運用状況の開示を大会社に義務付けるルールと同趣旨です。「財務に関する事務」が特記されたのは会計・現金の不正多発が法改正の背景にあったからと推測しますが、地方公共団体では官製談合、検査不正、収賄といった重大犯罪も少なくないので、これらも射程範囲に収めた内部統制システムを検討することになると思います。

次に「監査制度の充実強化」に触れます。改正地方自治法(要旨)では、「監査委員が監査等を行うに当たっては、各地方公共団体の監査委員が策定する監査基準に従うこととし、総務大臣は、地方公共団体に対し、監査基準の策定について、指針を示すとともに、必要な助言を行う」とされています。「必要な助言」とは、監査委員が不正支出を見つけた場合に是正を勧告できる仕組みも含むと思われます。

統一的な監査基準がない点は従来から問題点として指摘されていました。国から具体的な指針が出れば最低限の標準化は進みます。しかし、公会計の分野は実務を担当できる専門家が少なく、会計監査や不正監査の実効性を確保するには、人的資源の手当てを考えなければなりません。また、業務監査や是正・改善も実効性を上げるには高いハードルがあります。例えば、公組織の多くは文書中心主義で運用され、実態の把握や裏付け事実の確認が十分ではありません。そこに切り込むには、組織内で文化大革命を起こす必要がありますし、抵抗勢力との長い戦いが想定されます。

最後に、「地方公共団体の長等の損害賠償責任の見直し等」について述べます。改正地方自治法(要旨)では「地方公共団体は、条例で、地方公共団体の長や職員等の当該地方公共団体に対する損害を賠償する責任を、その職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、賠償の責任を負う額から、政令で定める基準を参酌して、政令で定める額以上で当該条例で定める額を控除して得た額について免れさせる旨を定めることができる」とされています。

上限額は政令で定めるとされ、政府は代表取締役の責任限度額を「年収の6倍」と定めた株式会社のルールを参考にする方針のようです。また、議会が首長らに対する自治体の賠償請求権を放棄する議決をするときは監査委員の意見聴取を義務づけて、一定の歯止めをかけています。

ゴルフ場開発計画を巡る訴訟での京都市の元市長に対する26億円返還命令、高層マンション建設計画を巡る訴訟での国立市の元市長に対する3,000万円の賠償命令(市場の不適切な開示や事実に反する議会答弁で違法性を認定)など、生活環境を守る信念で市民の支持を得て行動する自治体トップを委縮させる判決が続いているだけに、適切なルール導入だと私は評価します。

ただし、市民のために戦う首長は「清貧」の方もいるので、支援ボランティアが助けるにしても、「年収の3倍」程度が限度ではないでしょうか。自治体首長責任賠償保険が導入されれば別ですが…。いずれにしましても、もはや高度成長の時代ではないのですから、営業の自由より良好な生活環境の維持を優先する社会に転じてもらいたいものだと思います。

以上のとおり、今回の改正地方自治法は、地方公共団体の今後のガバナンスに希望の光を与えてくれる良識ある内容だと私は評価しています。J-SOX 法や会社法の内部統制システムのときのように、法律、会計、監査の専門家や内部統制コンサルタントの草刈り場とならないことを切に望みます。