日産自動車・実態調査及び再発防止策検討結果報告を読んで

日産自動車が11月17日に公表した実態調査及び再発防止策検討結果報告を読みました。「西村あさひ法律事務所に不適切な完成検査の過去からの運用状況等、事実関係やその原因についての調査を委託した」とありますので、事実関係の認定は西村あさひ法律事務所が、問題の背景・原因、再発防止策は日産自動車がまとめたでしょう。後者について私の感想を述べさせてもらいます。

まず、Webサイトの基本ステートメントにおいて「国に代わって完成検査業務を実施ていながら、その義務を怠って多くの皆様の信頼を損なったことを大変重く受け止めている」とあります。この「義務を怠って」という認識に私は違和感を覚えます。

事実認定によれば、本件不正は70年代、80年代から続いており、不正発覚を免れるため、国交省などの監査当日は無資格者を完成検査以外の業務に従事させる、無資格者に資格者のバッジを付けさせて隠ぺいを図る等の行為に及んだ工場もあるようです。これらは背信的悪意であって義務違反などというレベルではありません。日産自動車は、そうした厳しい自己反省を踏まえて基本ステートメントを考えるべきだったと思います。

私が最も違和感を覚えるのは、「完成検査を実施する現場と車両工場および本社の管理者層との間に距離があり、管理者層が本件問題を把握し対処することを困難なものにした」との個所です。

このコミュニケーション上の断絶がゆえに、「係長および工長は知っていたが工場の品質保証課長以上の管理職がこれを全く把握していなかった」、「完成検査員の特殊性を踏まえた人員配置が検討されていない」、「低減率の目標も工場全体に一様に適用し、完成検査員の確保に特段の配慮がない」等々の見落としにつながったというロジックです。

どのような組織でも、「管理と現場の距離」、「現場の暴走」はある意味で想定内ですから、これを意識して、行動規準の定立、オペーレーションリスクの管理、内部統制システムの充実、監査・通報制度の実効性確保に努めています。

日産自動車も「現場の暴走を許し、それを長年放置したのは、ひとえに経営の監督不足である」という責任表明があってしかるべきではないでしょうか。現場の規範意識が希薄だっとか、経営・管理層と現場が対等のような表現は、世間の見方とズレている気がします。

工場の品質保証課長以上の管理職がこれを全く把握していなかった、ましてや本社管理部門や経営層は考えてもみなかった、という説明だと思いますが、30年以上続いた不正を見聞きした役職員が上位職に昇進昇格するケースはなかったのでしょうか。それも信じがたい話のように感じます。

今後も独立第三者委員会は設置されるのでしょうか、それともこれで幕引きでしょうか。日本を代表する企業として説明責任を果たすことを期待します。

 

 

 

 

この秋のコンプライアンス研修を振り返って

10月や11月を企業倫理月間とする企業・団体が多いので、役職員向けのコンプライアンス研修のご依頼は、9月から12月に集中します。私も、9月中旬から週に3~4回のペースで研修の講師を務めています。

終盤にかかり、この秋のコンプライアンス研修を振り返りますと、働き方改革関連の分野を除き、ハラスメント、個人情報、公正取引、インサイダー取引規制といった個別分野の研修は減少し、反面、現場でミスや不正が発生するメカニズム、経営やマネジメントの押さえどころ、現場の社員に意識・行動を修正してもらうコツ、といった根本的なテーマを依頼されるケースが増えました。

神戸製鋼所の検査データ偽装、日産・スバルの無資格者検査などに象徴されるような、現場の悪しき慣行、スタッフ部門の不適切な関与など、日常の事業活動でかかえがちなリスクを感じ取り、そこにメスを入れたい企業が増えているように感じます。でも、進め方を間違うと、現場の抵抗感が増して逆効果になりかねません。

推進事務局の皆様からは「現場の社員にガツンとお願いします」と依頼されるのですが、現場の社員の多くは「作業方法の変更」「禁止事項の伝達」といった具体的な形に落とし込まないと理解が難しく、なかなか受け入れてくれません。ですから、まずはマネジメント層が日常業務に潜むリスクを理解し、それをどのように現場の社員の伝え、改善の成果を刈り取るかについて、実践的な研修をするのが良いと私は考えています。

実際のところ、この秋の研修は、そうした「伝わっているとの思い込み」「現場の業務実態の把握不足」「現場から問題を報告してもらえる必要条件」といった指摘からスタートする研修が多かったですし、そうした現実直視の内容に多くの方々が反応してくださいました。12月まで、こうした方向性で研修を継続したいと思っています。

原発・核ごみ住民説明会にアルバイト学生動員

 原子力発電環境整備機構(NUMO)は11月14日、原発の高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場の候補地絞り込みの件で経済産業省と同機構が住民向けに開いた意見交換会において広報業務を委託した「地域力活性化研究室」(練馬区)及び「オーシャナイズ」が、謝礼の支払いを約束して学生を動員していたことを公表しました。

11月6日のさいたま市の説明会では、86人中の12名が学生で、オーシャナイズから1万円の日当を約束されて参加したものの、謝礼を問題視する意見が会場で出たため、実際には支払われなかったとのことです。さらに、オーシャナイズは、東京、愛知、大阪、兵庫の4会場でも一人あたり5千円の謝礼を学生サークルに約束し、27人の学生を動員したようです。その他、5県でも同様の勧誘をしたものの、学生が集まらなかったのことです。

本件は、2011年の九州電力・やらせメール事件と同じ構造で、説明会の公平性を損ねたことに批判が集まっています。同事件は運転停止中の玄海原子力発電所の再稼働を巡り、経済産業省が県民向けの説明会を開いた際、九電の原子力発電部門の社員が本社や子会社の社員に一般市民を装って再稼働を支持する意見メールを送るよう依頼していた案件でしたね。

こうした作為的な動員、賛成意見の掻き集めは、反対派の意見にも耳を傾け、良識ある配慮をすべき説明会を、開催した事実を作るための通過儀礼と考えている印象を与えてしまい、事業の推進に大きな障害となるリスクがあります。特に、原発など反対活動も多い公的事業に関する説明会であれば、すぐ政治問題に発展する可能性もあります。

一方、都心部の中高層建物建築や風光明媚な郊外での太陽光発電など、民民の対立になりますと、説明会を開催して法的条件を満たす以上はストップできないと行政も後退することがあります。説明会に参加しますと、「いくら反対しても建つものは建ちますよ」とうそぶく事業もいないでもありません。

今回の原因は、委託先に丸投げし、内容のや禁止事項を細かく確認しなかった原子力発電環境整備機構の不注意だったように思います。九州電力の事例もあるのですから、原発事業の置かれている状況を踏まえ、発注時に予防・排除しておくべきでしたし、それが可能だったと思います。

民間企業においては、社会一般では「説明会」が「説明責任」と同義に厳しく捉えられていること、結論の誘導や一方な打ち切りは卑怯なやり方と反撥を食らうことをよく理解しておく必要があります。うるさい反対派を振り切り、当初の目的を達したと喜んでも、長い目で見れば信頼を失って事業の継続を危うくします。根気よく説得し、譲るところは譲って、初心を貫徹する粘り強さが求められます。