JR西日本の説明責任

山陽・東海道新幹線のぞみ176号が人身事故で車両前部を破損したまま走行を続けた件で、運転士が衝突音に気付きながら運転を継続したこと、並びに小倉駅の駅員も血痕や車両のひび割れのような異常に気付きながら詳しく点検せず、同駅発車後に指令に報告したことをJR西日本は15日に公表しました。

運転士も駅員も、走行中に鳥に衝突したと思い込んでいた様子で、破損はすれ違った別の車両の運転士が指令に報告し、次の駅での確認が指示されたようです。JR西日本の副社長は記者会見で「(異音があれば必ず報告する)マニュアルを失念したか誤認したのではないか」と発言しています。

JR西日本の経営の説明も職員の話も、責任感に乏しく、世間の懸念に正面から答えていないように思います。2005年の福地山線脱線事故で表面化した過密ダイヤ、安全対策の遅れ、定刻運行のプレッシャー、日勤教育等々の問題が記憶に新しいなか、昨年12月ののぞみ台車亀裂事故(あと3cmで台車枠が破断する重大なインシデント)を契機に抜本的な再発防止策を講じたはずなのに、こうした初歩的な規則違反が生じては、利用者や近隣住民は、「本当に対策を徹底したのか」と、不安は増すばかりです。

航空業界には、「臆病者と言われる勇気」という言葉があります。濃霧の羽田空港への着陸を断念し、福岡空港に行き先を変更し、重大事故(同時刻に羽田に強硬着陸したカナダ機は墜落事故を起こして多数の死者が発生)を回避した機長の判断に対して、当時の日本航空社長が遺した言葉と聞いています。

定刻運行が崩れたときに駅員や鉄道会社が感情的な利用者からどれほど強烈なクレームを受けるか、どれだけ多額な営業損失が発生するかを多くの人々は理解しています。だからこそJR西日本には、「臆病者と言われる勇気」、「怒鳴られても止める勇気」が実行可能なのか、障害となる要因はないか、等の職員意思調査を毎年行い、その結果を公表することを提案します。

20年前、東南アジアの委託工場での強制労働、児童労働、低賃金労働、長時間労働、発がん性物質等々に対する全米規模の非難キャンペーンを受け、再発防止策を導入したナイキ社は、現在でも最新の関係情報を公表しています。不適切行為で社会から非難を受けた危機企業の説明責任とは、そうした真剣さの見える化を言うのだと思います。

テイク・リスクの精神と素早い意思決定

6月12日付け日本経済新聞のコラム「一目均衡」で編集委員の西條郁夫氏が、東芝のメモリ事業売却は半導体企業の栄枯盛衰の潮流から必然とも考えられるとの意見を述べられています。

西條氏のご意見は次の要旨で構成されています。
① 技術革新のスピードが速く、相場変動が大きい半導体ビジネスを制するには、テイク・リスクの精神と素早い意思決定が不可欠で、総合電機企業体の一部門として経営するには手に余る性格を有している
② 上位10社からNEC、モトローラ、フィリップスの名前が消え、インテル、クアルコム、エヌビディア等の専業会社の名前が並ぶ事実は、そうした推測を裏続けている。唯一、総合電機企業体のサムソン電子の名前があるのは、創業家出身の絶対的なリーダーの存在があるからにほかならない。
③ 東芝メモリの成否は、主導権を握るペインが投資回収や目先の業績底上げに拘泥せず、必要な投資をしっかり行うことにある。

私が西條氏のご意見から感じたのは、半導体ビジネスに限らず、サラリーマン社長、モニタリングモデルの取締役会、社外取締役の牽制力強化など、現在のガバナンス論を表面的に適用すると、何事も教科書的な予定調和に落ち着いてしまい、テイク・リスクの精神と素早い意思決定が後退してしまうのではないかという心配です。

企業を成長に導く重要判断で、ときに非合理な部分や不透明な部分があるものの、それを超えるメリットを追い掛けるためにあえて目をつむるケースもあります。日頃から経営情報にふれていない社外取締役がそうした場合に過剰反応すると、得られる果実を失うかもしれません。

私も上場会社の社外取締役を6年間勤めましたので、ガバナンスの必要は疑う余地はありません。そのなかで、アクセルとブレーキのバランスは非常に神経を払うところであるものの、個人の判断によるところが大きいのが実態です。

「適正なテイク・リスク」と言葉では簡単ですが、チェック&バランスのベストプラクティスなど実践ノウハウを広く共有して、日本企業の社外取締役をレベルアップすることが期待されます。

(追補) 6月18日付け日本経済新聞の記事によりますと、東証1部上場のサイボウズ社は、社外取締役を設置しておらず、「事業環境への理解が不足した社外取締役を置くことによって意思決定の迅速さが阻害される恐れがある」とコーポレートガバナンス・コードに従わない理由を開示資料で明示しているようです。こうした考え方があって当然だと思います。

 

 

 

社長ポストの自主返納

6月7日付け日本経済新聞(夕刊)によれば、高齢ドライバーの認知機能検査を強化した改正道路交通法施行から約1年間で、「認知症の恐れがある」と判定された約5万7千人のうち4割(2万人)が免許の自主返納などで運転をやめていたことが警察庁のまとめ(推定値)でわかったそうです。

私のコンプライアンス研修を受講された某製造業のグループ会社の社長が役員定年前に職位を自主返納する例が最近ありました。御本人とお話する機会があり、単刀直入に理由を尋ねたところ、①現場のすみずみまで点検したが大きな問題はない、②世間の基準が過剰なほど細かくなり感覚的についていけない、③会社や後進に迷惑をかけたくないし、自分も晩節を穢したくない、等々の説明でした。

このお話に私はとても感激しました。「仕事や責任を放りだしてけしからん」という意見もあるかも知れませんが、変化のスピートについていけないリスクを直視し、潔く後進にポストを譲るのは究極の責任の取り方かも知れません。

経営者の能力を客観的に測るのは、現実には不可能ですし、意味もありません。しかし、企業を取り巻く環境の変化に無関心、無頓着であるのは、経営者として失格だと思います。例えば、上場企業の役員を対象に、最新版の経営常識やルールをセルフチェックしてもらう仕組みを証券取引所が上場規則で導入されてはいかがでしょうか。

コーポレートガバナンス・コード等では、経営トップを監視し、首をすげ替えるシステム作りに熱心ですが、もはやここまでと自主返納する仕掛けがあってもいいように私は思います。皆さんはどのように考えますか?