後継者計画の文書化

9月19日付の日本経済新聞に、経産省が今秋公表する改正企業統治指針に、社長やCEOの後継者の選考過程の文書化や社外取締役主導による社長の後退・更迭判断等を盛り込む予定であるとの報道がありました。

具体的には、後継者の選任要件を明確にしたうえで、次の社長やCEOの選任計画や誰がなにをいつするのかを明示した工程を早い段階から作り、選任過程の議事録を文書で残すよう上場企業に求めるようです。ただし、後継者計画の公表は不要され、あくまでも内部での検証材料にとどめるとのことです。

また、非常時に備え、指名委員会の規則に社外取締役の役割や権限を事前に定め、問題を起こしながら居座る社長やCEOに交代を迫る機能を与えるよう、指針に追加する予定とも同記事は説明しています。

正直なところ、企業統治指針に盛り込むには、スピードを急ぎ過ぎている印象を禁じ得ません。現任トップが後継人事案を作り、社外役員に意見を求めるところまでは反対意見はないと思いますが、議事録に残して以後の検証に供する、株主・投資家が求めたら開示する、という段階まで行きますと、追いついていけない企業が多数出てくると思います。

現状では社外役員も社長やCEOが実質的に候補者指名するわけですから、現任トップの影響力を排除することは困難ですし、協議して議事録を残しても、どれほどの効用があるか疑問です。株主・投資家の関心は、有能な後継経営者や基幹人材が確保されているか、という点にありますので、最初はその範囲での対応を企業に求めるのが現実的だと思います。

改正企業統治指針で最も重要なことは、上場企業は「公器」であり一切の私物化は許されないこと、経営者は受託責任に基づく透明性と説明責任を果たしきるここと、倫理性に反することがあれば直ちに追放されることを明記することではないかと私は考えます。

 

 

重大不祥事と機関投資家の反応

三菱UFJ銀行が2018年4~6月開催の株主総会における賛否結果を公表しています。このなかで、同じ三菱グループに属する三菱マテリアルの取締役選任議案に反対票を投じている点が注目されます。

今年6月初旬、米議決権行使助言会社インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)が、リニア中央新幹線の入札談合事件に関与したと疑われる各社のトップ再任議案に反対を推奨し、注目を集めました。

これまでは、重大な不祥事を起こしても、巨額な賠償金・制裁金を負担し、トップの発言や姿勢に批判が集まるようなケースであれば、株主総会で批判的な質問を浴びることはありました。

しかし、機関投資家の受託責任と説明責任が正しく理解されるようになり、投資家や市場に説明できない株主総会での投票行動は後退する流れにあります。

上場会社グループ企業の会長・社長以下の業務執行が考えるべきは、株主から経営を託された立場として、透明性と説明責任を励行し、マイナスの行動や結果に対しても意見や要求をしっかり受け止め、その対応状況を継続的に開示する、ことにあります。

昔から教科書では説明されてきたことですが、ここ数年、ようやく現実の経営規準として説得力を持つようになりました。機関投資家の行動規準作りは、上場企業のガバナンスやコンプライアンスに対して、一定の効果が生まれてきたように感じます。

樹木希林さんを偲ぶ

女優の樹木希林さんが亡くなりました。是枝裕和監督の『万引き家族』での芝居が忘れられません。逃げた亭主と次の妻との間にできた息子に生活費をせびりにいく場面が私は特に好きです。

中国には、お金がある人はお金を出そう、力がある人は力を出す(有銭出銭、有力出力)という言葉があります。以前、鳳蘭さんが両親の教えと紹介された記事を拝見して、いい言葉だなと覚えました。

お金も地位も天から預かったにすぎず、状況に応じて役割を分担し、支え合って生きていくのが健全な社会との意味に私は解釈しています。映画での樹木さんの芝居を拝見しながら、この言葉を思い出しました。

是枝監督は、常識をかざした社会の暴力性を一貫して表現されています。『万引き家族』での樹木さんの演技から、世間から放っておいてもらう自由の大切さや愛情を深く注いで暮す幸福感を強く感じました。

監督の感性や技量によるところも大きいとは思いますが、樹木さんご自身が自分の流儀を貫き通された苦労があってこそ、慈愛に満ちた表情の演技ができたのだと思います。これからも幾度となく思い出すであろう素晴らしい演技でした。

こまかな気配りのうえに率直な物言いや自分の流儀を自然に通し、幅広い年齢層に親しまれた稀有な女優さんだと思います。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。