パワハラに関連して考えたこと

会社の人事部門に勤務する友人から意見を求められました。1年前に中途入社した契約社員が上司によるパワハラ被害を主張し、代理人弁護士を通じてメンタルヘルス疾患による不就業中の給与、治療費、慰謝料の支払を求めてきたそうです。職場でヒアリングした結果では、上司にパワハラの兆候すら感じられないとのことでした。労災保険を利用するでもなく、無理筋の要求の匂いがしたので、追加調査のポイントを助言し、こうした対応に強い弁護士さんを紹介しました。最近、この手の「首をかしげたくなる要求」が増えていると聞きます。弁護士さんの話によると、なかには最初から計画的に被害者になったのではないかと思われるケースもあるようです。

近年、パワハラの防止を言い過ぎて管理職が委縮している組織が目立ちます。私は、だれが見てもトンデモナイと感じる言動を基準にパワハラを説明します。上司が気持ちを込めて自分の感情を部下に伝えることは、組織が仕事を進めるうえで重要な要素だと思います。上司がこんなに怒るほど悪いことをしたと理解させないと同じ失敗を何度も繰り返すからです。「少し時間を置いてから『さっきは感情的になり過ぎて申し訳ない、このあと私も手伝うから〇〇〇しよう』と丁寧にフォローして、部下の気持ちにしこりを残さないようにすればクレームにならないし、仕事に対する部下の姿勢も治りますよ」と研修では説明しています。

私が心を痛めるのは、上司にはパワハラというほど極端な行為がないため本人も周囲も問題を感じていない一方、部下の対人処理能力やストレス耐性が弱いために限界を超えて倒れてしまうケースです。こういうケースでは、部下が原因は自分にあると考え、上司や会社に迷惑をかけてしまったと更にプレッシャへーやストレスを受けます。大企業であれば治療休職を付与することもありますが、多くは自己都合で退職する結末になります。企業社会は競争なのでしょうか、弱い人間は自業自得と切り捨てられてもしかたないのでしょうか。

こうした事例は「業務の適正な範囲」を超えてはいませんが、仕事や職位を背景にプレッシャーをかけており、部下の受け止め方や精神的負担に対する配慮が足りなかったという意味ではパワハラ事件と紙一重です。でも、安易に救いの手を差し伸べると、組織内で同じ対人トラブルを繰り返して周囲に迷惑を掛け、業務の障害になりかねません。

簡単に人を切り捨てる組織にはなりたくありませんが、組織の体力を超える負担は背負えません。法的責任が発生する状況でなければ、いかにも残念ですが、コンサルタントとしては「組織を優先する選択」を助言せざるをえません。そのなときは「なんとか生き抜いてください」と祈る気持ちで本人を見送ります。

無頓着に暴言・暴力を繰り返す上司も、大げさに被害を訴える部下も、自分勝手で腹が立ちます。でも、パワハラをなくしても、それで職場のすべてが改善するわけではありません。ほんとにハラスメント、疾患、過労死を防止したいのなら、業績目標を達成することと仕事の犠牲者を出さないことを同じ価値とする経営方針を実践すべきでしょう。

別の言い方をすれば、いまここで仕事をできる幸運に感謝し、本当に困ってる社員を助けながら、気持ちよく安心して働ける職場を協力してつくることが大切です。そうした平凡を地道に積み重ねた組織が非凡な力を生むのだと私は思います。