内部通報制度に関する私の考え方

久しぶりに、企業の内部通報窓口導入のお手伝いをしました。コンサルタントの仕事としては、昨年12月に改定された消費者庁の民間事業者向けガイドラインを充足することが最低限の基準になります。でも、ガイドラインの作成に関与された方々には申し訳ありませんが、そこに描かれているのは情報の処理手順や法令順守事項の確認にとどまり、通報制度の根幹部分が不足していると私は感じています。

まず、通報者は「自爆」や「刺し違え」のリスクを覚悟して告発します。経営トップは安心・安全な職場を提供する役割を担いますので、それほど過酷な状況に追い込んだことを通報者に謝らなければなりません。「相談窓口を設けるので困ったことがあれば連絡してください」といった呑気な伝達では、本質を分かっていない経営者と思われ、現場の信頼や協力は得られません。現場の協力がなければ、内部通報窓口は機能しません。私のコンサルテーションでは、「経営は働きやすい職場づくりに精一杯努めるので協力して欲しい、情報提供者は経営が責任を持って守りきることを約束する」旨のトップメッセージの発信を推奨しています。

第二に、なにか不都合があれば職制を通じて解決するのが組織の基本ですから、内部通報は職制を使えない特別な事情を想定して設置するか、抑止効果の監視カメラと割り切って設置するか、いずれにしても限定的に考えるのが原則です。内部統制フレームワークの原典であるCOSO報告も、「開かれた情報伝達チャネルの確保が原則で、通常の伝達チャネルが作動しない場合にフェイル・セーフ・メカニズムとして役立つ別の伝達ラインが必要である」という書き方になっています。実務では、敷居を低くするため「よろず相談先」の体裁をとりますが、その場合でも、職制による問題発見や解決を阻害しない「配慮ある運用」が必要です。通報の奨励も結構ですが、あくまでも補助的なツールであることを忘れてはなりません。ここを間違えると、せっかく動いている組織やチームが壊れてしまいます。

第三に、不正の告発は人的衝突を背景とするケースが多いので、言い分の異なるドロドロした話の中からリスク要素の情報だけを抜き取る技術が求められます。その際には、「通報者が善で非通報者が悪という先入観」を排除して対応しないと大きな過ちを招きます。さらに、通報者が会社の事情聴取・事実認定・フィードバックに不満を示し、外部に一方的な情報を提供するケースもあります。この場合、合理的な処分理由の説明が可能ならば就業規則等に基づいて公正に処分すればよいはずです。経験の少ない若い弁護士さんが、公益通報者保護法を盾に不利益処分を控えるよう企業に指導しているケースに遭遇しましたが、もう少し実態に即した判断が必要だと私は感じました。自分だけ良ければいいという身勝手な言動を許すと、組織のモチベーションや経営への信頼がガタガタになりますので、経営が体を張って組織を守るべき場面といえます。

ところで、金融庁に対する不正会計の告発を例に、内部通報や公益通報の有効性を説く論者がいます。これが成功しているのは、外形的・画一的に違法と判断できる行為である、受付・対応する方々がプロフェッショナルである等の条件が満たされているからで、ある意味で特殊なケースだと私は思います。一般の企業や団体では、内部クレーマーのような社員であったり、愚痴や不満を聴くだけの対応であっりして、対応に苦慮することが少なくありません。下手な素人対応によって二次被害を生んでしまうこともあります。ですから、内部通報窓口を設置するのは経営の姿勢としてよいことですが過度な期待は控えるべきだ、と私はお客様に話しています。設置する以上はPRしなければ活用されません。しかし、本来の職制の問題解決力を強化する努力なくして根本的解決はないことを忘れないでください。ここは法律やルールではなく、組織人としての素直な感覚が大切です。

本日は、内部通報制度に関する私の考えを述べました。公益通報者保護法の疑問点については、稿を改めて述べさせてもらいます。なお、このWebサイトの代表者の視点>もっと理解したい方へ>10. 経営や上司にコンプライアンス違反の疑いが!に関連する指摘があります。ご興味がある方は是非ご覧ください。