高度プロフェッショナル制度は必要か

秋以降に国会審議が予定される労働基準法改正案には、職務の範囲が明確で一定の年収(年間平均給与額の3倍を上回る水準として厚生労働省令で定める額)を有する労働者が、高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に、健康確保措置等を講じること、本人の同意や委員会の決議等を要件として、労働時間、時間外、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設が含まれています。この新制度は、第1次安倍政権でとん挫した「ホワイトカラー・エグゼンプション」が名前を変えて再登場したものであることはみなさんご存じだと思います。

私は、政府や経済団体がこの新制度の導入に熱心な理由がいまだによくわかりません。これからの超高齢化や生産労働人口の減少を考えれば、長時間労働の削減、非正規・正規間の格差是正、名ばかり管理職の撲滅、フレキシブルな働き方の拡充などを通じて、男女ともライフステージや家庭事情に応じた働き方ができる制度づくりに集中することこそが政府の唱える働き方改革だと思います。高度プロフェッショナル制度は、そうした流れに逆行するよう思えてなりません。仮に検討するのであれば、労基法第38条の3(裁量労働制)や労基法第41条(管理監督者等の労働時間等に関する規定の適用除外)と一括して、時間外手当のつかない労働形態を整理すべきではないでしょうか。

成果主義にしろホワイトカラー・エグゼンプションにしろ、労働慣行の違う外国の制度を真似る発想に無理があると思います。米国社会では、時間外手当のつかないエグゼンプト(管理職・法務・経理・技術者・デザイナー等)と時間外手当のつくノン・エグゼンプト(一般労働者)とでは求められる経験や資格について厳格な区別があります。エグゼンプトは、高い報酬と部下の採用権限、転職によるキャリアアップ、解雇のリスクを特徴としますし、ノン・エグゼンプトは、エグゼンプトの数分の一の報酬、地域に根差した私生活、組合による職域・継続雇用の後ろ盾を平均像とします。つまり、エグゼンプトは別格の存在であって、ノン・エグゼンプトの先にある地位ではありません。日本の労働慣行では、エグゼンプトに相当する職位は見当たりません。

労働基準法改正案の新制度は、「高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する者」に絞るようですが、デキる社員に仕事が集まる、特定の社員でないと仕事がわからない、突発的な業務命令が多い等々の障害事由が多い日本企業の職場で、自律的裁量で働ける労働者がどの程度いるのか、結局のところ「長時間労働の合法化」につながるのではないか、といった疑問はどうしてもぬぐいきれません。

社会が安定するには、米国でいうノン・エグゼンプトの階層に生活保障がまんべんなく行き渡ることが重要で、その不満や不安を放置することは、格差意識や対立構造を助長しかねません。過度な長時間労働や過労死の防止はもちろん考えるべきことですが、いま必要な制度導入なのか、それによって全体の方向感が乱れないか、そもそも論に立ち返って考えてみる必要があると私は考えます。