逆命利君

仕事部屋の書棚を整理していたら、佐高信著「逆命利君(ぎゃくめいりくん)」 という懐かしい本を見つけました。これは住友商事・元常務取締役の鈴木朗夫氏を主人公とする物語で、組織に埋没せず、自分の価値観を貫いて、組織や社会に大きな利益を生み出した、誇り高く鮮烈な生き方が描かれています。amazonで講談社文庫の中古が入手できますので、夏休みの一冊に是非お勧めします。

この逆命利君という言葉は、私が会社勤務のときに心から慕った上司に教えてもらいました。直言極諫の先輩でした。正式には次の文章をいい、前漢の学者・政治家である劉向が編纂した「説苑」が出典です。
  命に従いて君を利する、之を順と為し
  命に従いて君を病ましむる、之を諛(ゆ)と為し
  命に逆らいて君を利する、之を忠と謂い命令に逆らってでも主君にとって真の利
  益になるように貫くことこそ真の忠義である

  命に逆らいて君を病ましむる、これを乱と謂う

組織のガバナンスで重要なのは、経営トップの倫理観とリーダーシップですが、さりとて人間の所為ですから迷走や緩みは避けられません。大手企業の会計不祥事でも、監査法人から指摘があったものの、担当外の取締役、監査役、経理・法務・内部監査のスタッフが経営トップに抗しきれなかった図式がほぼ共通しています。

こうした職務に就く役職員が職責を全うするには、「経営トップよりも先読みして実行可能な提案をすること」、「最終的には経営トップと刺し違える覚悟で仕事にあたること」が必要ですよと、新任役員や部課長向けのコンプライアンス研修でよく話をします。逆命利君はそうした場面にぴったりあてはまる言葉ですね。もちろん、そうした部下の価値を理解して大切にする経営トップの存在も組織には必要不可欠です。

逆命利君の生き方には、譲れないものを明確に持つ、喧嘩や説得ではなく事実と行動で語る、手柄は経営トップや上司に渡す、といった共通点があるのではないかと思います。その境地に至るには、教養や胆力を鍛えて目先の変化に動じない、他人の話に耳を傾け社会の現実に貪欲に学ぶ、他人の評価で動かない、といった自己規律を積み重ねることも必要でしょう。

コーポレートガバナンス・コードには盛り込みにくい点ですが、組織で働く方々には、その重要性が骨身にしみてわかると思います。そうした人物に恵まれた組織は背骨がしっかりしています。読者の皆様の会社や職場はどうですか? 私はまだまだ修養が足りません。