自分に置き換えて理解できる説明の重要性

日本経済新聞の記事「私の履歴書」のファンは多いですね。12月1日から元プロ野球投手の江夏豊氏の連載が始まりました。複雑な家庭事情の話の後に、「そんな自分の野球人生を語る前に、一つ書いておかなければならないことがある」と前置きして、覚せい剤取締法違反での逮捕、2年間の服役、後悔の念、信用回復の誓い、そして支えてくれた方々への感謝の気持ちが書かれています。同日に開催された某社のコンプライアンス研修で、さっそくこの記事を紹介させていただきました。

人間は誰しも、自分はまちがっていない、正しく行動していると錯覚する傾向にありますので、不祥事を起こすリスクを話しても、自分に置き換えて考えてくれる受講者は多くありません。ですから、不祥事を起こす確率はみな等しく持っている、ひとたび不祥事を起こせば信用を失って、まともな仕事に就くのは難しく、家族を巻き込んで人生の歯車が大きく狂ってしまう、という話を研修では必ずするようにしています。江夏氏の言葉は、地獄を経験して生まれ変わる過程で理解した「誘惑に負けない大切さ」を伝える忠告として受講者の心に届いたと思います。

私は、現場のコンプライアンス活動は、罰を受けたくない、自分に得なことならばやる、といった初歩的な道徳観を基準に設計し、評価される良い行動をする、義務は絶対に守るといった大人の道徳観は幹部人材の任用要件に組み入れるべきと考えています。多くの企業のコンプライアンス活動は、現場の社員にも、社会の期待に応えろ、誠実な行動を励行せよ、と抽象的な理想を説きます。残念ながら、現場の社員に届いているとは思えません。

不祥事を起こしたら自主退職、生活困窮、家庭崩壊と、自分と家族の生活の歯車がくるって路頭に迷う、まずは自分と家族を守れるようコンプライアンスを励行して欲しい、と説明した方が、活動の価値を理解しやすく全員の動機づけになります。他人から言われたことは続きません。自分で考え、気付いて、変えた考え方や行動は長続きします。組織のコンプライアンス活動では、現場の社員を含め、全員が自分に置き換えて理解できる説明を提供することが大切です。