経営における究極のリスクマネジメント

11月8日の日本経済新聞には、第9回日経フォーラム「世界経営者会議」の講演内容が掲載されていました。

英フィナンシャル・タイムズCEOのジョン・リディング氏は歓迎レセブションで、「ディスラプション(破壊)に伴うリスクや脅威という視点だけでなく、成長をもたらす機会ととらえることが重要だ」と語っていました。また、印タタ・トラスツ会長のラタン・タタ氏は、「破壊は悪いものではない。正しい理由で起きる破壊はすべてのものを新しくするし、それにあえて立ち向かう会社が良い。」と発言されています。いまやグローバル経営のキーワードは、「創造的破壊」なのですね。

数年前から「全社的リスクマネジメント」の構築・整備に着手する大手企業が増えて、私もそのお手伝いをしています。いつも議論になるのは、労務、品質安全、公正競争、環境などの個別リスク管理、それから高度な経営戦略リスクをどのように扱うかです。ほとんど企業は、リストやマップに項目は掲載しておくが、実質は所管部門、専門委員会、経営会議体、取締役会で協議・決定して、本社のリスク管理部門が集約・管理する方法に落ち着きます。

市場、技術、労働力の変化に後れを取れば、持続可能な成長は難しくなります。一定のルールが存在する領域で逸脱をコントロールするのは、平均的な能力があれば可能です。しかし、人口爆発、気候変動、水・食糧危機、エネルギー革命、IoT、AIなど、未体験の環境変化のなかで、10年後、20年後にどのように変容していくか、凡人には考えが及びません。マネジメントは合理の追求ですが、経営の巧拙は経営者の直観など非合理な部分が大きく影響すると私は考えています。

事業の選択と集中に始まり、新しい技術に立脚したサービス、新たな市場の創造と、さまざまな経営論がかわされています。一方、持続可能な成長を目指す究極の経営戦略が、識者の指摘する「創造的破壊」ではないかと思います。アサヒGHD会長兼CEOの泉谷直木氏の「破壊的イノベーションの時代には、過去の延長線上の経営発想や手法では自己崩壊するリスクがある」とのご発言は、こうした考えと同義だと思います。

リスクマネジメントの本質は、英知を集めて変化をチャンスに変えることにあり、そうした競争優位の創造は慎重な合議からではなく、卓越した能力の経営者によって創られることが多いと考えられます。経営戦略リスクの管理は、そうした創造がシナリオ、行動計画に具現化された段階で、そのオペレーションが逸脱なく、また定期的にレビューと改善を加えながら、適正に実行されるプロセスを保証するものだと私は理解しています。(素材やエネルギーの価格が上昇したらとか、規制するレギュレーションが強化されたら、といった類は、オペレーショナル・リスクに近いものだと思います。)

創造もシナリオも行動計画もないところで、「○○が起きたらどうしよう」と心配しても何も変わりません。「予想外の事態になったらどうしよう」と話し合っても、そもそも予想できないのだからどうしようもありません。また、いくら卓越した能力の経営者と言っても、天から創造が降ってくるわけはありません。失敗と経験を繰り返し、事業の本質が体に蓄積したところに、客観的な事実や情報との運命的な出会いが重なり、両者が融合・爆発して卓越した創造が生まれるのだと思います。

戦略的破壊と戦略リスクマネジメントの境界線をどこに引くか、少し考えてみませんか。