節度をわきまえた働かせ方、働き方を共通理解とする社会

7月26日、「長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果」が厚生労働省から公表されています。http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000172536.html

これは月80時間を超える時間外・休日労働が行われた疑いのある事業場や長時間労働による過労死等に関する労災請求があった23,915事業場を対象とした立入調査で、公表データには、実際に月80時間を超える時間外・休日労働が認められたのが7,890事業場(76.8%)、違法な時間外労働があったのが 10,272 事業場( 43.0 % ) 、賃金不払残業があったのが1,478 事業場( 6.2 % ) 、過重労働による健康障害防止措置が未実施のが2,355 事業場( 9.8 % ) 、過重労働による健康障害防止措置が不十分なため改善を指導したのが20,515 事業場( 85.8 % )、労働時間の把握が不適正なため指導したのが 2,963 事業場( 12.4 % ) といった調査結果が並びます。

私が注目したのは、違法な時間外労働があった 10,272 事業場のうち、時間外・休日労働の実績が月100時間を超えるのが 5,559事業場(54.1%) 、月150時間を超えるのが1,168事業場(11.4%)、月200時間を超えるのが236事業場( 2.3%) との数字です。長時間労働が疑われる事業所に限定した調査とはいえ、危険ゾーンを超えている事業者の割合の多さに心を痛めています。

長時間労働を放置する経営は、社員の人命を軽視し、社会ルールを無視したうえで、自分だけ延長戦を設けて「勝った、勝った」と自慢しているように世間には映ります。違法な働かせ方で作った過去の業績は社会や投資家から否定されます。そして、平常の業務と若干の追加業務は常識の範囲の時間外労働で賄えるように人的リソース、業務システム、受注量の状態を常時コントロールするぞと、経営トップが頭を切り替えない限り、病的な長時間労働は解消しません。

それと、この問題に取り組む企業では、36協定の上限時間もしくは月80時間の遵守だけを管理特性において活動している例が目立ちます。労働基準監督行政が長時間労働の指導・勧告の根拠としている脳・心臓疾患の労災認定基準では、「業務により明らかな過重負荷をうけたこと」(業務起因性)の認定要件として、長期間の過重業務(発症前1ヵ月間に100時間超または発症前2ヵ月間から6ヵ月間に80時間の時間外労働)のほかに、短期間の過重業務(前日からの業務が特に過重または一週間以内の業務が過重)や異常な出来事(業務に関連した重大事故による精神的ショックなど)も判断要素とされています。36協定の遵守ではなく、働く仲間一人ひとりの命と健康を守ることが最終的な目的であることを忘れないようにしましょう。

また、「仕事の現場に個人の病気を持ち込まないで欲しい、他の社員が迷惑だ」という本音トークもよく耳にします。社員には労働の提供に耐えられるよう健康を維持・管理する責任(自己保健義務)があり、これは法律や裁判例でも肯定されています。その一方で、労災認定基準では、業務上の過重負荷を「医学経験則に照らして、脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められる負荷をいう」と説明します。つまり、そこまで仕事で負荷を与えたら一般論として持病の脳・心臓疾患を急激に悪化させてもおかしくない場合は労災と認定するのが社会のルールなのです。

労災保険は労働者の救済を目的とするので、死亡・発症した労働者に有利に判断されることは間違いありません。その意味では会社の主張が通らない場面も多々あります。しかし、会社や監督者の責任を追及する民事裁判では、労災認定の結果が判決に大きな影響を及ぼしますので、企業のリスクマネジメントの観点からも、労災認定基準を最低限の社会的責任と位置付けて取り組むべきだと私は考えます。

命より大切な仕事などありません。一人の命は高齢者、子供、他の弱者を支える社会の大切な財産でもあります。節度をわきまえた働かせ方、働き方を共通理解とする社会になって欲しいと願います。