正気に戻してくれる言葉

私は若松義人氏の「トヨタが『現場』でずっと繰り返してきた言葉」という本が好きで、手元においてはときどき読み返しています。実際に現場で苦しみ、悩み、トンネルを抜けた方の解説は、発言された方の考え方を的確に伝え、道から外れかかった自分を正気に戻してくれます。みなさまも、ご自分のツールをお持ちのことと思います。

同書のなかで私が実感として同意する言葉は次の通りです。
「工場にメシを食わせてもらっていることを忘れるな」(工場、機械設備、社員施設が優先で、間接部門はその次)
「教えるときに、『わかったか』と聞いてはいけない」」(相手や職場の行動の変化の有無で判断する)
 「社内(なか)でやれ」(重要個所を外部に依存すると後に改善ができず競争力が身につかない)
「最大の報酬は、お金ではなく『聞く』ことだ」(改善活動の報酬は、トップが足を運んで聞き、やりがいを与えること)
 「安く買うのではなく、『安く売れる』方法を考えよ」」(買いたたくのではなく協力会社の改善を一緒に行う)
「異論がなければ異論をつくれ」(事前にいろいろな角度で検討しておけば何か起きても素早く対応できる)
「基礎工事を雨ざらしにするな」(仕事の改善を地道に続けていれば不況になっても利益はでる)
「困らなければ知恵はでない」(限界まで部下を困らせることでブレイクスルーが生まれる)

私は、仕事や組織は株主、お客様、社会からお預かりしているもの、こうして効率性、正確性、安全性を追求していると説明して厳しい点検を受ける責任がある、と研修ではお話します。同著で紹介される「トヨタの言葉」は、気持ちよいほどに合理主義であり、仕事でやるべきことをシンプルに可視化しています。ここまですきのない仕事を徹底していれば、倫理・道徳の行動規範は出番が少ないと思います。

仕事の姿勢や管理が厳しい組織のメンバーは、コンプライアンスの話にも敏感に反応します。コンプライアンスは仕事そのものですね、という感想も珍しくありません。反対に、仕事が緩い組織のメンバーは、コンプライアンスの話を他人事のように扱い、危機感や責任感が感じられません。ほんとうは逆の反応でバランスがはかれると思うのですが、なかなかうまくいきません。

コンプライアンス活動の年間テーマに「完璧な仕事」を掲げた企業がありました。結果は、細かい業務改善を積み重ね、なかには設備や工程の変更提案も含まれ、一定の成果を上げました。決められた通り正確に作業する、注意深く丁寧に作業する、お客様や次工程の観点で不満はないかを考えて作業する、といった基本に戻ることで、コンプライアンスの範囲内で効率性を追求することが普通に行えるようになります。自分が所属する組織が、コンプライアンスは業務品質の追求にほかならない、と理解できる組織でありたいものです。