業務上の注意をパワハラ被害と申告する社員への対応

企業のハラスメント担当者が対応に苦慮する相談例のひとつに、業務上の注意をパワハラ被害と申告する社員への対応があります。例えば、会議に数分遅刻した、説明の文章になっていない、職場であいさつを返さない等々の類の「注意・叱責」です。

多くのケースは、「指摘はその通りだが侮辱するような言い方はやりすぎだ」、「自分の考えを強引に押し付けられて個人の尊厳が傷ついた」といった一方的な申告です。ハラスメント担当者としては、相手が言葉尻をとらえ、重箱の隅をつつく指摘を永遠繰り返すので、どのように会話してよいか困ってしまいますね。

3ヵ月前、ハラスメント担当者が初心者マークなのでサポートして欲しいとある企業から依頼をうけ、申立者とハラスメント担当者の面談に同席しました。申立者は、「指示通り仕事をしているのに、上司は次から次に要求を変えて私をいじめている、職場から私を追い出したいに違いない」と説明しました。

そして、ハラスメント担当者は、申立者の話が終わるや否や、厚生労働省のパワハラの定義を述べ、会社としては「業務の適正な範囲」を超えていないと判断している、と強い調子で言い返しました。まさに会社が心配した通りの展開です。

そこで私が割って入り、「自分が馬鹿にされている、いじめられていると、いつごろから感じたのか」、「なにか切っ掛けの事実があったのか」、と申立者に尋ねました。 そうやっていくつか過去の話をしているうちに、自分の能力が低く見られることを極端に怖がっている心の情景がハラスメント担当者にも私にも伝わってきました。

そこで、面談前に職場で取材した同僚の言葉を借りて、「能力は高いのだから、自分の思い込みで進めず、周囲に教えてもらって仕事をすれば、すぐ職場の戦力になってくれる、新人のトレーナーもお願いしたい、とみんなが言っているよ」と申立者に穏やかに伝えました。本人が周囲から認めらていること、受け入れられていることを明確な言葉にしたわけです。

申立者はパッと表情が緩み、「もう少し頑張ってみます。申立は取り下げます」と言って職場に戻りました。結局、本人は会社を自分から辞めましたと、会社から連絡がありました。本人が自分の価値を認め、周囲の人とも協力的に暮らせるようになって欲しいと祈ります。でも、ここから先は、どうしてあげることもできませんね。

私は60歳に近い人間ですから、誰も十分なレジリエンス(回復力・復元力)を備えている、他人と自分が同じ価値とわかれば普通にやっていけると、これまでの経験から信じています。なによりも、「自助の精神」を基本としなけければ、社会や集団生活はやっていけません。

人間はルール通り動く機械ではありませんし、人間関係のこじれは「自己表現」の意図しない伝わり方から生じます。ハラスメント担当者のみなさんは、専門家が書く教則本にとらわれすぎず、相手の「こころの声」を聴くようにつとめると、建設的な解決に近づけるかもしれません。