東レ・品質データ改ざん事件報道

11月28日、東レハイブリッドコードという工業用繊維メーカーで品質データの改ざんがあったと、親会社の東レが公表しました。自動車用タイヤの繊維製補強材や自動車用ホースベルトで、2008年から2016年まで149件の品質検査データの書き換えがあったとのことです。

2016年7月の社内アンケートで不正が判明したもので、品質保証室長2名が「規格外れが僅差で品質上問題はない」と判断し、複雑な作業を省いたとのことです。これはデータ偽造事件に共通する傾向です。そして、11月初にネット掲示板の書き込みがあり、正確な情報を流すべきだと考えて、情報の整理と顧客への説明の上、今回の公表に踏み切ったそうです。外部有識者による調査も進行中で、2017年度中に終了させると報道記事にはあります。

関係者の告発がネットで拡散すると釈明が難しいので不祥事を公表するケースは少なくありません。ただし、東レの榊原元社長は現経団連会長ですから、批判や進退問題に発展しないよう、先手を打って自主的に公表したのが、公表した理由の中心だと思います。トップが経済界で要職に就くと、些細な現場の不祥事でも強烈に叩かれるので厄介ですね。

公表が1年以上遅くなったのは、法令違反はない、誤差1%未満と僅か、安全性に影響なし、民間の契約違反の問題、という認識からだったようです。神戸製鋼所等の事件の影響で、十把一からげに偽装事件と報道されますが、何もなかったら公表不要と判断する事案かもしれません。まだ具体的な事実がわかりませんが、当然公表すべきケースとは断言できないように思います。

それにしても偽装事件報道の過熱ぶりは2013年の食材偽装事件を思い出しますし、日本企業の現場力が低下した証左だ、というワンパターンの論調に疑問を禁じ得ません。11月28日付け日本経済新聞「経済教室」で藤本隆宏東京大学教授が「言論界は、(逸脱行動の)因果関係の複雑性を踏まえ、正確な分析を期し、間違っても、逸脱発覚・品質不良・現場力低下などを短絡的に結び付け、結果として意図せざる風評被害の原因を作らぬよう、自らの報道の品質に留意すべきである」と指摘されています。私もまったく同感です。

一連の品質データ偽装事件で最も重要なのは、その偽装行為が品質不良を生み、エンドユーザー等に危険を及ぼす可能性があるか否かです。まず、そのリスクコミュニケーションをきちんと行ったうえで、不適正行為が発生した経緯、想定される要因、再発防止策といった点に、各企業が腰を据えて取り組むのが順序だと思います。その要因分析や再発防止も、法律家による責任判断指向の第三者委員会ではなく、技術、生産管理、組織心理学等の専門家の協力を得て、徹底した検証を行っていただきたいと思います。

同記事で藤本教授は、「およそ製品安全に責任を持つ企業は全て、自社に同様の逸脱行為が無かったかを総点検すべきだ」、「仮に逸脱行為が品質問題を全く起こしていないのなら、もともとの要求仕様や安全規則が過剰であった可能性が出てくる」と指摘されています。25日付けの朝日新聞記事で「現場のルール違反やあしき慣習を放置しないよう、経営陣のガバナンスこそが求められる」と私のコメントを掲載して戴きましたが、藤本教授の御論稿を拝見し、自分の意見が間違っていなかったと確信しました。

これだけ報道が続き、データ偽装が重大な不祥事あるとこがはっきりしましたので、いま現場を叩いたら似たような事実がぞろぞろ出てくるでしょう。この際だからと公表する企業も、当面は続くかもしれません。食材偽装のときは、連鎖的公表が続き、一部では批判もありましたが、結果的には表示ルールの厳密化、違反行為の厳罰化に関係の規制が動きました。今回も同様の自体になるのか、行政の動きを注視する必要がありそうです。