日本企業の海外M&Aの成否を分ける要因

「日本企業が海外M&Aで減損や撤退に直面するのは何故だと思うか」と弁護士さんから質問を受けました。私はM&Aアドバイザーではありませんが、国内案件の買収監査(デューデリジェンス)の一部を担当する業務も行っているので、その経験から感じている範囲で意見を述べました。以下に回答の主旨を書きます。読者の皆様の参考になれば幸いです。

M&Aの成否を分けるのは、買収後の統治で買収先企業とのシナジーを実現できるかどうかにあります。海外拠点であればプロの経営者を雇い入れ、旧経営の行動様式から買収企業の価値観に転換してもらうべきところです。しかし、旧経営陣を温存したまま、内部昇格者を監督責任者として送り込み、買収企業の本社にいちいちお伺いを立てる日本企業の例が少なくありません。買収先企業の役員や社員にも馬鹿にされ、最終的には取り込まれてしまった監督責任者も私は知っています。

もう一つの問題は、買収監査、買収価額算定、売買契約書といった買収完了に至るプロセスです。高値掴みや隠れたる瑕疵が後から判明するケースでは、売主であるファンドや大株主から即断即決を迫られて相手の言いなりに応じたり、過剰評価が疑われても手数料収入を多くしたい買収アドバイザーが静止しなかったりする背景を聞いています。

経済産業省は8月24日、「我が国企業による海外M&A研究会」を設置し、我が国企業による海外企業の買収とその後の海外子会社の経営について参考となる事例・取組等を含む報告書の公表やシンポジウムの開催を予定すると発表しています。有効な情報が提供されると良いのですが、能力不足の企業でも海外M&Aに成功する魔法の杖は存在しません。

もし会社の生き残りや成長をかけるならば、売り手本位の紹介案件ではなく、自社の身の丈にあった海外M&Aを理解して相応しい買収候補を自ら捜し求めるべきでしょう。加えて、情報収集、買収監査、買収価額算定、売買契約書でプロフェッショナルなサービスを提供してくれる買収アドバイザーを日頃から探して複数確保(コンフリクトから受任拒否される可能性があるため)しておく必要もあります。そして、買収アドバイザーは、職業倫理に厚く、手数料収入に安易に走らない組織や人物を選任することが大切です。

買収候補先になるということは、経営が停滞期に入っている可能性があり、前例踏襲、思考停止、優秀な人材の離脱なと、不祥事の引き金が想定されます。しかし、売り手はリスクへの接触を警戒し、情報もきつく統制されます。

そして、決定的な問題は「使える時間の短さ」です。買収監査をお手伝いする際、買収先企業から提出された情報の確認が精一杯で、幹部の倫理観や責任感、管理の死角にたどり着く時間の余裕がありません。クロージングを急がされる案件は、不要に手を出さない自制心が大切です。

日本企業の海外M&Aの成否を分ける要因は、そうしたセオリーを勉強せず、単なる「企業の購入」と勘違いしているところにあると私は考えています。