大学院の自由課題レポート

私は、青山学院大学大学院法学研究科(社会人大学院)の非常勤講師を2008年から続けています。講座名は「CSRの法と実務」で、CSRの沿革と枠組み、関係の深い国際機関や国際規範、CSRを促進する社会システム、著名な紛争ケースの解説、最近の新聞記事のCSR的分析などをお話しています。前期の授業を終了し、学生のみなさんから自由課題レポートを提出してもらいました。ご本人たちの推定的承諾のもと、紹介させていただきます。

M.M.さんは、90年代初頭に欧州で始まったCSRが日本でどのような変遷で成長したかを、M.Porter教授のCSV理論(Creating Shared Value)を踏まえて分析してくれました。日本では企業不祥事などマイナスの影響を防止・軽減することにCSRの軸足が置かれてきたこと、並びにCSVはバリューチェーン全体を俯瞰して創造すべき社会価値と自社の強みを結び付ける考え方であると解釈し、日本企業は従来のCSRを継続しながらCSV経営にシフトすることで市場と雇用を創造すべき、との結論を導いてくれました。

N.K.さんは、第70回国連総会で採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」の17の目標うちの5つを選んで、日本の実例に言及しながら実現の難しさを分析してくれました。「CSRの活動は人類の希望と思いました」(筆者:ピッタリの表現! 私も使わせてもらいます)、「世界ではこれほど大きな活動となっているのに、日本ではまったくその活動が報道されないことに違和感を感じました」、「その活動を知る機会さえあれば多くの人たちが共感し、自分も何かをしたいと思うでしょう」等々、感性豊かなコメントに感激しました。

N.S.さんは、倫理的消費に関する国内外の意識差を考察してくれました。国外での倫理的消費の動向を確認したうえで、国際的な基準で高評価を得ている日本企業の特徴を分析してくれました。「積極的にCSR活動をしている企業を評価することで倫理的な消費選択が生まれる」、「倫理的消費とそうでない消費を選択できるだけの情報を消費者に提供することが不可欠」との指摘は、非常に重要なポイントです。私は授業の中で、倫理性に配慮した投資行動と消費行動がなければ企業の自助努力では限界があると力説しましたので、このテーマを選択してくれて、とても嬉しかったです。

CSRの本質は、ステークホルダーとの共通価値を最大化する一方で潜在的な悪影響を特定、防止、軽減するという表裏一体の目的の下に、ステークホルダーとの密接な協働によって、社会、環境、倫理、人権、そして消費者の懸念を経営戦略と企業活動の中核に織り込み、人間社会の持続可能な成長に寄与する経営を実践することにあります。CSRの誕生からの変遷を学ぶことによって、将来世代に迷惑をかけない暮らし方、世代間で幸福を分かち合える生き方を考えることができます。

学生のみなさん、お疲れさまでした。頑張って提出してくれたレポートに励まされて、私もさらに精進します。