地方自治法改正と地方公共団体のガバナンス

少し前の話になりますが、改正地方自治法が6月2日に成立し、平成32年4月1日から施行される予定です。地方公共団体のガバナンスの実効性を高める重要な制度導入が含まれますので、ポイントを紹介するとともに私の意見や感想を書かせてもらいます。

まず、「地方公共団体の財務に関する事務等の適正な管理及び執行を確保するための方針の策定等」について述べます。改正地方自治法(要旨)では、「都道府県知事及び指定都市の市長は、財務に関する事務等の適正な管理及び執行を確保するための方針を定め、これに基づき必要な体制を整備しなければならない(市町村長は努力義務)」、「当該方針を策定した地方公共団体の長は、毎会計年度、当該方針及びこれに基づき整備した体制について評価した報告書を作成し、議会に提出しなければならない」とされています。

これは会社法が業務の適正を確保するための体制に関する基本方針決定を取締役会に義務付け、事業報告書で方針と運用状況の開示を大会社に義務付けるルールと同趣旨です。「財務に関する事務」が特記されたのは会計・現金の不正多発が法改正の背景にあったからと推測しますが、地方公共団体では官製談合、検査不正、収賄といった重大犯罪も少なくないので、これらも射程範囲に収めた内部統制システムを検討することになると思います。

次に「監査制度の充実強化」に触れます。改正地方自治法(要旨)では、「監査委員が監査等を行うに当たっては、各地方公共団体の監査委員が策定する監査基準に従うこととし、総務大臣は、地方公共団体に対し、監査基準の策定について、指針を示すとともに、必要な助言を行う」とされています。「必要な助言」とは、監査委員が不正支出を見つけた場合に是正を勧告できる仕組みも含むと思われます。

統一的な監査基準がない点は従来から問題点として指摘されていました。国から具体的な指針が出れば最低限の標準化は進みます。しかし、公会計の分野は実務を担当できる専門家が少なく、会計監査や不正監査の実効性を確保するには、人的資源の手当てを考えなければなりません。また、業務監査や是正・改善も実効性を上げるには高いハードルがあります。例えば、公組織の多くは文書中心主義で運用され、実態の把握や裏付け事実の確認が十分ではありません。そこに切り込むには、組織内で文化大革命を起こす必要がありますし、抵抗勢力との長い戦いが想定されます。

最後に、「地方公共団体の長等の損害賠償責任の見直し等」について述べます。改正地方自治法(要旨)では「地方公共団体は、条例で、地方公共団体の長や職員等の当該地方公共団体に対する損害を賠償する責任を、その職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、賠償の責任を負う額から、政令で定める基準を参酌して、政令で定める額以上で当該条例で定める額を控除して得た額について免れさせる旨を定めることができる」とされています。

上限額は政令で定めるとされ、政府は代表取締役の責任限度額を「年収の6倍」と定めた株式会社のルールを参考にする方針のようです。また、議会が首長らに対する自治体の賠償請求権を放棄する議決をするときは監査委員の意見聴取を義務づけて、一定の歯止めをかけています。

ゴルフ場開発計画を巡る訴訟での京都市の元市長に対する26億円返還命令、高層マンション建設計画を巡る訴訟での国立市の元市長に対する3,000万円の賠償命令(市場の不適切な開示や事実に反する議会答弁で違法性を認定)など、生活環境を守る信念で市民の支持を得て行動する自治体トップを委縮させる判決が続いているだけに、適切なルール導入だと私は評価します。

ただし、市民のために戦う首長は「清貧」の方もいるので、支援ボランティアが助けるにしても、「年収の3倍」程度が限度ではないでしょうか。自治体首長責任賠償保険が導入されれば別ですが…。いずれにしましても、もはや高度成長の時代ではないのですから、営業の自由より良好な生活環境の維持を優先する社会に転じてもらいたいものだと思います。

以上のとおり、今回の改正地方自治法は、地方公共団体の今後のガバナンスに希望の光を与えてくれる良識ある内容だと私は評価しています。J-SOX 法や会社法の内部統制システムのときのように、法律、会計、監査の専門家や内部統制コンサルタントの草刈り場とならないことを切に望みます。