名ばかり管理職と企業のコンプライアンス感度

コナミスポーツクラブ(東京)の元支店長の女性が、管理職を理由とした不払賃金(残業代)約650万円を請求した訴訟の判決が東京地裁でありました。新聞報道等によりますと、原告は入社8年度に支店長に任用され、月5万円の役職手当が支給される一方、残業代は支払われなかったようです。裁判長は支店長を「名ばかり管理職」と認め、制裁金にあたる「付加金」も含め約400万円の支払いを命じたと記事にはあります。

ご存知の通り、労働基準法では労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある「管理監督者」は労働時間、休憩、休日の制限を受けません 。管理監督者に当 てはまるかどうかは 役職名ではなく、その 職務内容 、企業内での責任と権限、勤務態様等で判断されます。

 そして、企業内で管理職とされていても次の基準に該当しない場合には、労働時間等の制約を受けて時間外割増賃金や休日割増賃金の支払いが必要となります。これが「名ばかり管理職」の代表的な事象です。

①  労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にあり、労働時間等の規 制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していること
 ② 経 営者から重要な責任と権限を委ねられていること。
 ③ 労働時間について厳格な管理をされていないこと。
 ④ その職務の重要性から、定期給与、賞与、その他の待遇において、一般労 働者と比較して相応の待遇がなされていること。

今回の地裁判決では、アルバイトの採用や備品の購入に本社の決裁が必要だった、労働時間はタイムカードで管理されていた、従業員と一緒にフロントなどシフト業務に入らざるを得なかった等々の事実認定から、「支店運営の裁量が制限され、恒常的に時間外労働を余儀なくされた。管理監督者の地位や職責にふさわしい待遇とは言いがたい」と結論付けられているようです。

企業経験が長い方は、執行役員、事業部長、本部長クラスの管理職でないとこれらの要件を満たすことは難しい、部長クラスでもここまでの裁量権はなく、まして課長はほぼ該当しない、と感じるのではないでしょうか。正直なところ、私もそのように思います。

しかし、企業の真の意図がどうあれ、人件費の負担を免れるために名ばかり管理職を積極的に利用していると世間から見られます。フリラーンスの利用も人件費、福利厚生費、社会保険料の負担を免れるのが狙いではないかと疑われます。ですから、管理職の権限と責任、労働時間、処遇に、遵法の観点から合理的な配慮をしているかどうかで、その企業のコンプライアンス感覚が問われる結果になります。

労働基準法上の管理監督者は、同法の時間規制等の対象からは外れますが、労働者であることに変わりはありませんから、長時間労働を減らし、健康の保持に配慮する義務と責任を企業は負っています。メンタルヘルス疾患や自殺は管理職の世代に集中する傾向があります。名ばかり管理職は、そうした悲惨な事態の温床になりかねません。まさに、企業の社会的責任の問題です。

労働基準法上の管理監督者の概念は、米国のエグゼンプションの地位に似ており、日本企業の職制制度をこれに変更するのは現実的ではありません。そうではなく、権限・責任・裁量が著しく少ないポストについては「社内的には管理職の扱いだが労働基準法上の管理監督者には該当しない」という雇用上の地位を明確にして、適法性を回復するのが早道だと思います。

長時間労働の削減、労働時間管理の強化という実務の流れにおいて、管理監督者の適用範囲の厳密化をはかる企業が増えてくれることを期待します。