労働生産性の向上とコンプライアンスの両立

労働生産性を向上しつつコンプライアンスを強化するにはどうしたらよいか、例えば残業時間が制約される一方、点検・記録・監査等の間接業務が増える、双方の両立をどのように考えたら良いか、という質問を経営層からしばしば受けます。こうした質問が出るのは、コンプライアンスを経営層が真剣に考えいる証拠だと喜ばしく受け止めています。

確かに、新規に雇用するより多く残業させた方が得だ、管理など形が整っていれば良い、とすまされていた時代もありました。しかし、些細な形式違反でも、利益優先や顧客無視と攻撃されて会社の屋台骨を揺るがしかねない現在の日本社会では、法令・規則に合致しない事実を放置することは、それ自体が大きな経営リスクです。

まずは、「いままで放置できたことが異常で、本来の正しい姿に戻すのが当たり前」という判断基準を経営・幹部が統一して持つことがスタートだと思います。いままで過不足なくやってきたのに厳しくなるのではなく、いままでやっていなかったことを今後はきちんとやる、という現実を皆さんが負担に感じているのではないでしょうか。厳しいようですが、そのように考えないと世間の見方とズレてしまいます。

サービス残業、点検偽装などのコンプライアンス違反を続ける職場や個人は、暴発リスクを会社に埋め込む点で究極の低生産性労働で、これを是正・排除するのは経営として当然の責務です。その処置によって目先の売上・利益が減ったとしたら、それは許されない嵩上げだったと割り切るのが賢明でしょう。

そして次に、「コンプライアンスの徹底・維持に努めれば、マネジメントの強化、無駄の排除、コミュニケーションの改善を通じて労働生産性が改善する」という解釈を共通認識にすべきでしょう。これは少し難しいので解説します。

昨今の偽装事件は、管理者が現場の実態を見ておらず、本来の抜本的な対策を講じていないかった問題です。コンプライアンスを徹底しますと、マネジメントの強化が重要な対策となりますし、マネジメントを強化するためには、業務の要否、ルール、プロセスを見直して無駄を排除し、有効時間を確保することが必要です。例えば、担当はルーティン業務、管理者は例外処理と基本的な分担を明確にしておけば、報告すべき事項が明確になりますし、管理者も管理の為の時間が取りやすくなります。

また、コンプライアンス活動では、問題が起きたら担当者が抱え込まず直ちに上司に報告・相談するように方向づけますが、そのためには日頃から率直に自己表現できて、相手もそれを受け入れる対等なコミュニケーションや人間関係を構築しなければなりません。こうした職場環境は、コンプライアンスのみならず平素の業務を円滑・協力的に進めるうえでも良い方向に作用します。

コンプライアンスは、業務以外になにかを付加しませんし、決められことを決められた通り実践する以上のものではありません。もし、それで業務に支障が生じるならば、それは従来の業務の要否、ルール、プロセスに問題があると考えるべきでしょう。また、時間がないという不満は、やらなくて良いことをやっているか、やり方が冗長か、人数・能力が足りないかのいずれかが原因だと思います。

そうした仕事や職場の現状を客観的に把握・分析して、いかに楽に仕事をするかを考えるのが、労働生産性を向上しつつコンプライアンスを強化する近道だと思います。