企業価値の源泉は経営者の知性と情熱

ノートルダム大聖堂の悲しい事故には驚きました。精神的支柱を失った方々の悲しみはいかばかりでしょう。心からお見舞い申し上げます。寄付や再建のコミットメントも良いのですが、この出来事が何を啓示するのか、自己利益と弱者排斥に逆戻りしつつある国際社会が虚心坦懐に足元を見つめ直す時間があっても良いのかも知れません。

さて、4月9日放映の「ガイアの夜明け」(テレビ東京)で、ユニクロがジーンズ製品の製造方法を革新している様子が紹介されました。アパレル業界は構造的に環境・人権・労働面のCSR課題が多く、同社も日々改善に努めていらっしゃいますが、今回の放映内容は、国連SDG’sやM.ポーター先生のCSVの手本のような事例であると感じましたので、あえて本ブログでとりあげさせてもらいます。

ジーンズ製品は、綿花の栽培、生地の製造、加工など大量の水資源を使い、ダメージ感の風合いを出すための繊維の削りや化学物質の使用など対応すべき課題の多い商品です。そのため、ユニクロは、ロサンゼルスにジーンズ・イノベーション・センターを設立し、リーダーが古着屋で発掘した基準品に基づき、レーザーでダメージ加工するマスターデータを作成し、それをバングラデッシュの提携工場で製造に移行するプロセスを実現したそうです。

これまでの問題点をクリアするだけでなく、長年使い込んだ風合いをあっという間に再現する工程は圧巻でしたし、何よりも最近の機械装置や整然と配置された作業者の姿は、同じバングラデッシュのダッカでも、縫製工場が入った商業ビル「ラナ・プラザ」の倒壊事故(2103年)の映像と隔世の感がありました。サプライチェーンは急激に改善されているのを改めて実感しました。

そして私が何よりも心打たれたのは、「夢に生きないといけないんじゃないの。人間はいつ死ぬかわからないんですよ。人生は夢なの」。「世界一を目指さないと何やっているのか分からない。13万人の社員に『オリンピックに行ったら銅メダルとります』じゃ勝てない。少なくとも金メダルを獲る。それを絶対獲るんだという意志がないと勝てない」との柳井会長の言葉でした。

二宮尊徳翁に「道徳なき経済は罪悪であり 経済なき道徳は寝言である」という言葉があります。私は、CSRがメセナや地域清掃活動ではないことを説明する際によく引用させてもらいましたし、M.ポーター先生のCSVも言わんとするところは同じだと思います。要するに、この「道徳」を地球規模のサステナビリティ(地域・世代間の公平、持続可能な成長)でどこまで広く深く考えられるか、経営者の知性と情熱がビジネスの在り方を変革し、組織のエネルギーと企業価値を生むのです。柳井会長の言葉は、そこを率直に指摘されていると感じました。

昨今は、コーポレートガバナンスで企業価値を増加させる議論が人気ですが、本当の価値の源泉は、徹底した現実主義の経営者が、将来の変化を冷静に分析し、技術やビジネスモデルを革新する不断の努力を突き進めることにあるように思います。他社のベストプラクティスの物真似でない創造力、イノベーションを実現する組織力、あえて困難な道を切り開く勇気にこそ価値を置くべきではないでしょうか。

企業経営にとって、売上や利益は結果のひとつに過ぎません。資本コスト、資本効率、稼ぐ力を語る前に、何が世界最高水準として将来の市場を牽引できるのか、夢のある議論を重ねるリーダー、そこに集まる世界の人材、次世代の皆さんにはそんな背骨のしっかりした企業を薦めたいですね。