上司から不正を指示された際の対応

少し前に、ある企業のコンプライアンス研修の受講者(課長)から、「報告ラインの役員から不適切な行為を指示されています。どうしたらよいでしょうか。」と個人メールで質問を受けました。私は社内研修の講演時に連絡先を教えますので、ときどき深刻な相談が寄せられます。内容によっては、本人の承諾をもらって会社に情報提供しますし、そのままコンサルタントとして調査や改善措置のお手伝いをすることもあります。

少し宣伝っぽくなりましたので本題に戻ります。私は、ご本人の状況を理解したうえで、「逃げたらどうですか」とアドバイスしました。精神的に追い込まれ、心身の変調を自覚している様子があったからです。具体的には、体調の不調や病院での検査を理由にズルズルと3週間くらい有給休暇(前年の積休消化が利用可能でした)を消化する、奥様と国内の小旅行に出掛ける、奥様にはおおまかなところを話して状況を理解してもらうと提案し、ほぼ実行してもらいました。

肝心の「報告ラインの役員」には、事前にアポを取り、応接室で個別に面談しました。「複数(※情報提供者を特定されないカモフラージュ)の役職員から問題行動の指摘があります。ご自身で改善されるなら会社には報告しません。でも、今後も指摘があれば会社に報告せざるをえません。どうされますか。」と切り出しました。相手は少し驚いた様子でしたが、「話はわかりました。配慮に感謝します。私はどうしたらよいですか。」と相談があったので具体的なアドバイスをしました。

上司から不正や不適切な行為を指示された場合、教科書的には、やめることを説得する、メール・録音・メモ等の証拠を残す、上位の役職者に報告して善処をお願いする、内部通報窓口に連絡する等々の対抗措置が教えられます。防止の行動に出なければ自分も加担したのと同様に扱われると脅すこともあるでしょう。しかし、実務の現場で大事なのは、被害者の心身とその家族の生活を最優先に考えることだと思います。

弁護士さんが担当する外部通報窓口に連絡すればよいという意見もありますが、過度の期待は危険だと思います。弁護士さんは法廷技術の専門家であって、会社組織での人間関係の苦労を経験されている方は少ないからです。相談されたケースは役員クラスの不適切な行為であり、内部通報窓口を通じての対応は圧力や忖度に負け、不当な意趣返しを受ける可能性があるので、最初から考えませんでした。

上司から不正を指示された際には「加担しないよう逃げる」という選択肢もあると私は思います。しかし、その先で他の社員が犠牲を払うことがあれば、その罪を背負って生きることになります。研修の受講者が講師である私に相談したように、安全に実行できる「何らかの方法」を考え、問題行為の本人や上手にいさめてくれそうな役員の耳に届ける努力は払うべきでしょう。

事実調査や責任追及など考え出すとハードルが高くなります。ましてや役員クラスの行為では、いろいろな障害が増えます。まずは牽制球を投げて、本人に抑制してもらうことを考えるのが現実的ではないでしょうか。次に、その不正行為があまりに重大で、企業の存続を脅かすようなときは、本格的な告発を考える必要があるかもしれません。

でも、それが違法行為であったとしても、自分や家族を犠牲にしてまで告発するは勧めません。悪事はいつか必ず発覚しますので、現場の社員に無理な内部通報を強要しすぎないよう、組織として考え方を合わせておいた方が良いと私は思います。ただし、経営を預かる役員の皆さんには、相手と刺し違える覚悟で任務をまっとうしてください、と研修で伝えています。役員は社員と家族の生活・人生を預かっているのですから、社員と同列に考えるべきでないと私はお話しています。