三菱マテリアル系列会社の製品データ改ざん事件

製品データ改ざん事件に関する11月24日の三菱マテリアル、三菱電線工業、三菱伸銅の共同記者会見は、言葉を濁した説明にメディア記者の追及がヒートアップし、2時間半に及ぶ長丁場となりました。職業柄、会社側の受け答えや表情・声のトーンにハラハラ、ドキドキしながら、Webサイトの同時中継を最後まで拝見しました。

記者の攻撃の一つめは、三菱電線工業の経営が2月に不正を把握しながら10月まで出荷を続けた理由にあります。同社の社長は「逸脱の程度を特定せずに顧客に説明すると混乱・迷惑をかける」と説明しました。素材製品やOEM 製品の不具合を公表する際は、主要なお客様の事前了解をいただきますので、お客様の一部でも反対されると公表できない事態があります。でも、公表と出荷停止は判断の理由が異なるはずです。

今回も、生産活動に影響が生じるお客様との調整が難しく、社内の意見がまとまらずに公表や出荷停止が伸びたのではないかと私は推測しています。もしかすると、一部のお客様に内々に伝達したものの、お客様も対応できないので出荷を事実上要請した経緯があるかもしれません。しかし、お客様のせいにする説明はできないので自社で全部をかぶるケースはないでもありません。

もし、三菱電線・村田社長が説明するとおり、「確認対象が複雑・膨大で対応人数も限られるため全容把握に時間がかかった」というのであれば、すみやかに親会社に協力を要請できたはずで、そうした発想が浮かばない各社ばらばらの経営こそが問題を大きくしたのかもしれません。

なにはともあれ、三菱電線工業は、2月の時点で出荷は止めるべきだったと私は思います。最終ユーザーの安全確保に説明責任がありますし、お客様の自主的対応の機会を奪う権利はありません。また、製品のトレーサビリティがなければ、しょせん最後まで追いかけ切れません。欧米での賠償リスクが低いならば、公表して、怒りや批判を受けながら必死に対応する姿勢を見せた方が、正常な事業活動への回復も早いと思います。

記者の攻撃の二つめは、親会社である三菱マテリアルの役割認識です。記者の質問に対して同社の竹内社長は、二社の調査・対応の支援とグループ横串の展開が使命と回答しました。同社長は、「個別のことは把握していないから答えようがない」、「三菱マテリアルの関与は全くなかったと考えている」と発言されていましたが、翌日のメディア報道では「まるで他人事のようだ」と書かれています。記者の目にも「認識不足」と映ったのだと思います。同席の副社長はそのあたりを上手にこなされていたので、内部での認識の不統一も香り立ってしまいました。

素材メーカーは、出荷量・納入先が多いですし、工程・設備が旧式、要員が慢性的に不足等々、構造的にリスクが大きい業種です。中小規模のグループ会社では、対応能力が限られてしまいます。本件も、三菱伸銅が1,047名、三菱電線工業が513名と中小規模の事業者で起きています。会社の説明は、グループ統制における親会社の責任について認識が甘い印象を受けましたし、複合事業体/カンパニー制の影響と子会社の業務品質の統制管理を混同しているように感じました。メディアの記者もこの点を突いたのだと思いますが、質問と回答がすれ違っていました。

素材メーカーは品質・安全が命です。現場は納期・コスト優先で動くのですから、間違いを起こさない体制・運用について、三菱マテリアルの経営・本社が、人的リソース、自動化技術、設備投資など、平素から直接介入する余地があったのではないでしょうか。

会社の説明で、品質・安全の検査結果について人の手を介さない自動化システムの導入を三菱マテリアルの主導で着手済み、とのくだりがありました。そうした親会社主導の実効性の高い対策を整理して説明すれば、記者が受ける印象も随分変わったのではないでしょうか。

本件の本質は、グループ全体のリスク統制に対する親会社取締役の善管注意義務という観点にあると私は思います。同事件25日付けの朝日新聞の記事「時時刻刻」では「現場のルール違反やあしき慣習を放置しないよう、経営陣のガバナンスこそが求められる」と私のコメントを掲載して戴いています。このコメントは、上述の私の考えを要約してくださったものです。

経営・管理層と現場との意識・行動のギャップは、生産や工事を生業とする企業すべてに共通する問題です。品質神話の崩壊などと他人事のようなことを言っているのではなく、「経営者のみなさん、現場の実態、現場の認識をすみずみまで把握してください」と申し上げたい気持ちです。