デジタライゼーション・AI・ロボットと労働の質的変化

私は1984年に富士ゼロックスに新卒入社して以来、企業法務の仕事を20年担当しました。また、経営法友会で文書管理や知的財産管理などの実務マニュアルの作成にも携わらせていただきました。私が在籍した頃のゼロックスは自由度の高い最先端の企業で、AI事業部ではsmalltalk-80やinterlisp-DなどのAI関連製品、米国パロアルト研究所ではアラン・ケイ氏のDynabook(モバイル・コンピューターの原型)、マーク・ワイザー氏のユビキタス・コンピューティング論(コンピューターが生活環境の一部に組み込まれる状態)など現在の情報社会につながる礎を提供してきました。

法務を担当していた当時から痛感していたのは、膨大に見える業務情報も一緒懸命に標準化してみると、かなりコンパクトに集約できることです。将来機械に取って変わられる可能性は皮膚感覚として理解していました。プロジェクトファイナンスの分厚い英文契約で相手のトリッキーな条項を見落として10億円以上の損害を生んでしまった他社の友人もいますが、チェックポイントと許容条件を標準化しておけば防げるミスだったと後で話したの覚えています。人間は無限の情報から取捨選択しているつもりですが、それは錯覚で、実際に使う情報はたいしたことありません。

野村総研が2015年に「日本の労働人口の49%がAIやロボット等で代替可能になる」とリリースし、事務系の仕事はいずれも100%近い代替率が、税理士・会計士・社労士などの仕事も80~90%の代替率が示され、働く人々に激震が走りました。この潮流では質的な変化も重要です。

従来のデジタライゼーションは、人が仮想空間のクラウドにアクセスして情報やサービスを享受してきましたが、現在進展しているデシタライゼーションは、現実空間からビックデータが仮想空間に集積され、それをAIが解析・加工し、現実空間の人々に様々な有効情報やサービスが提供される形が増えてきます。ですから、人材配置、業務事項と優先順位、スケジュール、進捗管理、アウトプットの品質管理等々のマネジメントも、多くはAIやロボット等におきかわることでしょう。さらに、こうしたデシタライゼーションが進めば、テレワークなど時間と場所に拘束されない就業が容易となるので、それを原則とした就業形態や業務プロセスの再構築も当然必要になるでしょう。

こうしたデジタライゼーション、AI、ロボットの流れを踏まえると、今後の日本企業は、専門サービスは外部調達、調達・製造・労務サービスはロボット、コントロールはAIに依拠したマネジメントという構成にならざるを得ないのではないでしょうか。以前は技術革新があっても再教育・置き換えや関連の新業務の増加で失業者を回避できましたが、今後の変化は置き換え困難な対象者と必要な対応スピードが異次元に異なるように思います。企業内に抱え込んだ労働力を育成して新しい技術や市場の変化に対応する従来の雇用システムでは追い付かず、即戦力やスペシャリストを買う時代になるのは必然でしょう。

現在、残業上限規制、同一労働同一賃金、ホワイトカラーエグゼンプション、外国人実習生の受入増員など、新たな労働ルールが投入されていますが、これらも早晩役割が終わり、新たな役割・方法に即した労働ルールを根本的なところから作り直す必要が生じるかもしれません。特に、企業から外部調達される個人営業の専門家が「名ばかり個人事業者」にされて不利益を被らない、専門家の能力評価を客観的に示すシステムを構築して対等・公正な専門サービスの取引市場を構築するといった政策は重要になるでしょう。

仮にこうした社会インフラが十分に手当てされるとして、若手社員や次世代の人々は意識をどこに置くべきでしょうか。従来の社内育成型ジェネラリストや代替可能な労働力の雇用が激減することを考えますと、まずは一定の専門性とITやデータを使いこなせる能力を早い段階から磨き、自身の非雇用価値を高めることに意識を置くべきでしょう。それには、将来の社会や企業で何が求められるか、学生時代から基礎を積んで質の高い人的ネットワークに加わり、創造力を伸ばすことが重要になってきます。

次に、就職先を決めたら、将来食べていける専門分野を探し、30代前半まで国際規模で徹底的に知識、経験、人的ネットワークを身に着けることでしょう。最初から専門性を絞りすぎると実需とかけ離れるリスクがありますので、「置かれた場所で咲く」くらいの気持ちで目の前の課題に集中しているうちに道が開けてくるのではないでしょうか。

プログラミングやITツールへのアクセスの必修化が小中学生から始まるようですが、データサイエンスや企画・プレゼンテーションなど現場で役立つ実践的な訓練も増やせるとよいと思います。学校の教員だけでは無理ですので、そうした場面では企業の現役社員やOBをどんどん活用するとよいでしょう。そうした次世代育成のCSRが増えることも期待しています。