コンプライアンス活動の転換期

先日、知人の紹介で、ある企業のコンプライアンス部長から相談を受けました。今年の倫理強化月間を控えて担当役員から改善要望があったのでどう対応すべきか意見を聞きたいとのことでした。

同社の倫理強化月間では、社長の訓辞、職場単位での行動規準の読み合わせ、課題の職場討議、誓約書の提出が標準メニューになっているところ、担当役員から「形だけの活動で現場の不満が多い、改善せよ」と指示されたとの相談です。実は、このパターンの相談が最近増えています。企業のコンプライアンス活動が転換期にはいってきた兆しだと思います。

私は、過去にお手伝いした企業の社長の例をお話しました。その社長は、担当部署が作った行動規準の意味がわからない、どうして人権、労働、環境、賄賂といったテーマが必要なのか、自分が納得できなければ部下に指示はできない、とのことでした。

そこで、各々のテーマについて企業活動による「負の影響」が国内外でどのように生じたか、どのような方向でルール作りや対応が進んでいるかを概説しましたところ、役員全員にそれを教えて欲しいと依頼されました。結局、毎月の役員会の後に一時間、合計4回、大学の講義のようなことをしました。

その後、各テーマと自社の事業との接点は何か、何を優先順位とすべきか、だれがどのように取り組むか、といった議論を重ね、行動規準の「活動計画」が完成するまでの1年間、行動規準の原稿はお蔵入りとなり、発行する際には社長の匂いがプンプンする内容に書き改められました。コンサルタントの出番は、その意図するところを明確な表現に修正する作業だけでした。

コンプライアンスやCSRは、社会における会社の在り方のデザインにほかなりません。目指す方向と目標、現状とのギャップ、判断の優先順位を経営が明示しないことには前進できません。他律的に与えられるものではなく、自社の存在意義、そのための必要条件を考え抜くプロセスでもあります。

前記の社長は、「法令遵守は当たり前、本業を通じて地域の公共課題に寄与する」という方針(なんとEUのCSR戦略の考え方と一致します)を示し、地域に居住する社会的弱者の自律支援や生活支援に事業を広げ、自治体とNGOとの協業に頑張っていらっしゃいます。久しぶりに会社をのぞいたところ、社員の皆さんの表情が以前よりずっと生き生きとしている印象でした。

すべての企業がこのように進められるわけではありません。しかし、形だけきめて現場に投げっぱなしでは、いずれ反発を招きます。社員が誇りをもって所属する企業であるためになにをするか、経営の教養、洞察力、想像力が試されるのがコンプライアンスやCSRだと思います。経営が本気で取り組めば社員もついてきます。次の段階のコンプライアンスやCSRはどうあってほしいか、皆さんも考えてみてください。