オーナー企業の株価値上がり率が高い理由

SMBC日興証券の調査によると、東証1部上場銘柄のうち、オーナー一族の株式保有比率が10%以上で、かつ一族が役員として1人以上就任している企業の株価は、東証株価指数(TOPIX)に対し、値上がり率が約3倍に達するとの報道記事がありました。この定義の「オーナー企業」として、ソフトバンクグループ、ファーストリテイリング、キーエンスの名前が挙がっています。投資家は、顔が見える経営、戦略方針の明解さ、決定・行動のスピード感、資本効率の良さなどを「強み」と評価しているのでしょう。反面において、オーナー色の強い企業は、経営トップの暴走、不十分な情報開示などのリスクも指摘されます。

私がこの記事に興味を持ったのは、コーポレートガバナンスの議論との関係です。ご存知の通り、コーポレートガバナンスは、企業の持続可能な成長、企業価値の増大をはかるとともに、経営トップの暴走や公私混同を牽制するための理念と施策の集合体です。多くの実直なサラリーマン経営者がコーポレートガバナンス・コードを日々勉強して適合率と報告書の書き方の改善に努めていますが、株価を大幅に伸ばした成果は聞きません。その一方で、オーナー企業として記事でお名前の挙がっている企業は、事業力はダントツを走っているものの、ガバナンスやコンプライアンスは超優良というイメージではありません。それなのにオーナー企業の株価値上がり率が約3倍も高いのはどうしてなのでしょう。投資家はガバナンスを軽視しているのでしょうか。

これは私の持論ですが、人間の体に例えれば、コーポレートガバナンスは健康であること、重大な病気がないことの診断証明のようなもので、それで異常が見つからないからといって、知力、体力、気力が十分という結論にはなりません。むしろ、健康であることと稼ぐ力があることは別問題であって、そこそこの健康が証明されれば、筋の通った説明で稼ぐ力を訴求する企業に投資行動が集まるのは当然のことだと思います。投資家の要請に応えるため、上場企業に統合報告書の発行を求める先進国が増えていますが、統合報告書はまさに持続的な稼ぐ力を説明する公式ツールといえます。

近年、ガバナンス礼賛の研究者、法律家、コンサルタントには、「ガバナンスで稼ぐ力を伸長する」と主張(宣伝?)する方がいらっしゃいますが、私にはよく理解できません。そうではなく、これからの社会の変化を踏まえて、稼ぐ力を持続的に成長させるには何が必要か、影響する不確実性はなにか、どのような実現アプローチが合理的か、といった経営の議論を公明正大に行うならば、コーポレートガバナンスの要請事項に応えることは、むしろ当然と感じるでしょう。冒頭のオーナー企業は、それができているからこそ、株価値上がり率が約3倍も高いのだと思います。