電通の労働環境改革の公表内容

7月27日、電通が社長文書「労働環境改革の遂行に向けて 」と「労働環境改革基本計画」を公表しました。日本を代表する大企業の電通には他社の模範となる対策を実行して欲しいと願って拝見したところ、全般的に「あれっ?」と感じる内容でした。公表できない事項や私の理解不足もあるかと思いますが、感じたところを率直に書かせてもらいます。

社長文書「労働環境改革の遂行に向けて 」について

  • 「仕事の進め方や事業スタイルの根幹にまで踏み込んで抜本的かつ持続可能な改革を推進する必要がある」と書かれていますが、基本計画には「えっ、いまさらこんなレベル?」と驚くような記述がいくかあります。おそらく基本計画は2018年までの取っ掛かりの活動という趣旨だと思います。しかし、社長文書と基本計画のギャップが大きく、経営層の認識を疑われかねません。
  • 「経営と社員が一体となって取り組む状況を整えることに注力する」と書かれています。その実現には、経営層が総力を挙げて、「取り組むことが自分の得になる」、「本音を言っても安全だ」と社員を納得させる必要があります。労使がともに頑張る前に、経営層は何を反省し、いつまでに何をどう変えるのか、覚悟を示すべきでしょう。その言及がないので、経営層の当事者意識や責任感が希薄な印象を受けてしまいます。
  • 「『労働時間の短縮』と『業務品質の向上』は本来その二律背反ではないは ずという新たな認識に立って改革を進める」と書かれています。しかし、倒産の危機に瀕した状況を除いては、これに成功した企業は皆無に等しいでしょう。なにをもって必要性が低いと考えるのか、それを誰がどのように判断するのか、事業・社員の再編・縮小にも踏み込むのか、実現性を感じられる方向性の明示が必要でしょう。
  • 総じていえば、経営の失敗という当事者意識の希薄さ、対策の中長期ロードマップの欠如、世間が知りたいことへの説明責任の不足が目立つ内容であると私は評価します。仮に私が評価を依頼されたら、100点満点で30点前後(要再試験)をつけると思います。

「労働環境改革基本計画」について

  • 「スタンス」(1頁)の「透明性」は、本来、聖域を設けない、公正な第三者が調査・点検に加わる、不利な事実も開示する等々の進め方をいいます。「オープンな改革推進専用ルーム」、「議論の内容を徹底して公開」といった基本スタンスは、言葉の使い方として少しずれている印象を受けてしまいます。方針と内容が一貫性に欠けると関係者の優先判断にバラツキが生じます。
  • 「労務問題の構造」(3頁)の「問題の原因」には、原因ではなく「現象」が書かれています。従って、以降の対策の有効性が判断できないばかりか、「労働基準法遵守の軽視が原因なので法令遵守を浸透・徹底させたり個人評価指標に『法令・社会規範の遵守』を導入したりする対策を講じます」といった意味不明な情報開示になっています。具体的な原因事実は書きにくいと思いますが、例えばヒアリング結果を年代別、部署別、タイプ別件数などに区分して示すなど、伝えようとする姿勢がもっとあれば印象も変わると思います。
  • 「三六協定違反、ハラスメント、過重労働のゼロ化」(6~8頁)は、電通クラスの企業では一般的であるはずの対策すら未着手・不完全だった印象を受けます。特定部署の話でしょうか、組織全体の話でしょうか。導入・構築の話でしょうか、運用の徹底の話でしょうか。刑事裁判や将来の民事責任にも関係する話なので、基本計画とはいえ、書き方にもう少し注意した方が良いと思います。
  • 「2019年度の1人あたり総労働時間を80%に削減」(10~15頁)は、対策が平板で期待効果も楽観的すぎる印象を受けます。この程度の経営措置も講じてこなかったとすれば、社会常識とのズレすら感じます。過剰労働の直接要因となった仕事の受注を対応能力が整うまで辞退したり、お客様の不満を承知で再配達時間を変更したヤマト運輸のような「経営の覚悟」が感じ取れません。

7月27日放送のNHK・クローズアップ現代で電通の社長が「事業が縮小することは社員も容認しないはずだ」、「労働時間と生産性が両立できれば10時全館消灯・全員退出といった非合理な方法はなくなる」と発言されています。異常な働かせ方、働き方で作った水ぶくれの事業規模を否定するところからスタートしないのでしょうか?どうして残業抑制→業務見直し→業務・組織の再構築の順番で考えないのでしょうか? 社長文書も基本計画も、そうした経営トップの意向に沿った当たり障りのない表現にしたため、関係者の気持ちや議論の深さが伝わりにくいものになっているように感じます。

この記事の趣旨は、電通の取り組みを批判することではなく、同様の事態に他社が遭遇したときに、どのような点に注意して欲しいか、コンサルタントの立場でお伝えすることにあります。

電通の関係者のみなさま、ご自身の家族に誇れる会社、ご自身の親族を入社させたい会社になるよう、力を合わせて頑張ってください。経営層のリーダーシップには特に期待します。